学園長室にて
「おき……ださい」
「ん…」
体が揺すられる。
「起きてください」
また揺すられる。
まだ眠っていたい。
「いいから起きろ!」
「ぶへッ!」
思いっきり頬を叩かれた。
そこでようやく目を覚ます。
「いってぇ……ってエレナさんじゃないですか」
目を開けたところにはエレナさんがいつものメイド姿で立っていた。
「おはようございます。いい目覚めですね」
「そ、そうですね」
さっき俺の頬を思いっきり叩いたことがいい目覚めですか……。
どちらかというと最悪の目覚めな気がするんですけど……。
「それでは早速行きますよ」
そう言ってエレナさんは部屋から出て行こうとする。
「ち、ちょっと待ってください! 何処に行くんですか!」
「昨日言った通り、ニーナ様の所ですが、覚えてないのですか」
エレナさんが、俺を睨み付けてくる。
「いや、昨日は迎えに来るとしか言ってなかったじゃないですか」
「そうでしたか…まぁいいです。行きましょう」
そう言って何もなかったかのように歩き始めた。
この人ホントに大丈夫か?
そんな不安を持ちながら、エレナさんの後を追いかけていった。
◆
「それでは私は待っていますので、入ってください」
言葉はまだ優しいが、目が早く行けと言っていた。
ガチャ!
俺はエレナさんの目から逃れるように学園長室に入っていった。
学園長室に入ると、昨日と同じようにニーナが椅子に座って俺を待っていた。
「ニーナおはよう」
とりあえず挨拶をする。
「おはようなのじゃ!」
笑顔いっぱいで返してくれた。
そんな笑顔を見ながら、ニーナの正面の椅子に座る。
「それで、俺を呼んだ理由はなんだ?」
直球で聞いてみる。
「いや、特にないのじゃ! 強いて言えば、あの家は気に入ってくれたかのう?」
「あ、あぁすごくいい家だよ」
何の用件もないのにあんな起こされ方したのかよ……。
「うむ! それは良かったのじゃ!」
とても嬉しそうに笑っている。
自分の作った物を褒められて喜ぶなんて、ホントの子供みたいだな。
「それで、セイヤは今日どうやって過ごすんじゃ?」
急な話題転換だな。
「今日はギルドに行って何か依頼でも受けようと思っているよ」
自分なりに決めていた予定を伝える。
「そうか、お主が堕としたハクの様子を見に行くのじゃな」
ニヤリと笑いながら言ってくる。
「堕としてないわッ!」
つい、つっこんでしまう。
「くっくっくっ……お主はやはり面白いのう」
「はぁ……ハクさんの様子も見ようとは思っているけど、今回は依頼がメインだよ」
「そうか、つまらんのう」
ホントにつまらなそうにしている。
「あ、そうじゃ! お主字が読めんのじゃよな」
閃いた! と言わんばかりの声で言ってきた。
「……何で知っているんだ」
「まぁそんなことはいいじゃろう」
ニーナはそう言いながら立ち上がり、机の中をゴソゴソとあさりだした。
きっとエレナさんが言ったんだろうな。
あの場にいなかったのに何で知っているのやら……。
「お! あった。ほれ、プレゼントじゃ」
ニーナが何かを放ってくる。
俺はそれを慌ててキャッチした。
「これは……メガネか」
キャッチしたものを見ると、間違いなくメガネだった。
フレームが黒く、何の変てつもないメガネだ。
「何でメガネを?」
「それは精霊具の【翻訳メガネ】じゃ」
翻訳メガネか。
「翻訳と言うことは……」
「うむ! それをかければ字が読めるようになるのじゃ! これがあれば依頼書も見やすいじゃろう」
確かにそれに困っていたんだ。
でも、
「ホントに貰っていいのか?」
こんなメガネでも精霊具だ。
それ相応の値段がついているだろう。
「いいのじゃ! 我には必要ないからのう」
「そうか。じゃあありがたく使わせてもらう」
そう言ってメガネを胸ポケットにしまいこむ。
「うむ。さて、渡すものは渡したし、もう行ってもよいのじゃ」
「いろいろとありがとう」
椅子から立ち上がる。
「あぁ、そうじゃ。明日の朝もここに来てくれるかのう」
ん? 俺の編入に関わることか?
「分かった……じゃあな」
「うむ。あ、エレナを連れていくか?」
ニーナが聞いてきた。
「いや、それはいい」
つい、反射的に言ってしまった。
「くっくっくっ……そうかえ。依頼頑張るのじゃよ」
「あぁ、頑張ってみるわ」
そう言って学園長室を出ていった。
そのあとエレナさんと挨拶をしてからすぐにギルドへ向かい始めたのだった。
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