魔族との戦い(8)
森の中をひた走る。
「くそ、何処へ行きやがった」
森に入った魔族を追いかけているといつの間にか見失っていた。
置いてきたおっさんの事を考えると早く戻らないといけないのに。
じわじわと焦りが生まれてくる。
「早く見つけないと」
森に入ってから真っ直ぐ突っ切っている。
もうそろそろ何かしらあってもいいと思う。
そんなことを思っていると少し開けた所に出ることができた。
そこには、
「おやおや♪ 早かったですねぇ♪」
気色の悪い笑みを浮かべた魔族が待っていた。
見つけた……。
人を小バカにするような話し方しやがって。
いったいアイツは俺を何れだけイラつかせればいいんだ。
「テメェ、いったい何を考えているんだ」
何か考えがないと俺をここで待ってたりはしないだろう。
コイツとはさっき会ったばかりだが、何を考えているか分からない。
まるで闇のように得体の知れない奴だ。
「くっく♪ 私はダイソンを倒した貴方と話したかったのですよ♪」
ダイソン……。
俺が殺した長髪の男のことか。
しかし、アイツを倒したから話をしたい。いったいどういうことだ? さっぱり分からん。
おっさんも心配だから話す暇なんてない。
「悪いがこっちにはそんな暇はない」
腰から剣を引き抜く。
少しの間しか使っていなかったが妙にしっくりとくる。
「その剣……」
魔族の男が剣を凝視していることに気づいた。
それも、気色の悪い笑みを浮かべず。真剣そのものの表情で凝視している。
「……」
言葉を失ってしまった。
コイツはずっと人を苛立たせる笑みを浮かべていると思っていた。
なのに真剣な表情を見てしまってビックリした。
「少し聞いてもいいですか」
「あぁ」
真剣な表情につい合意してしまった。
「ダイソンは能力を使いましたか」
……能力。
長髪は能力を使っていなかった。
俺もそれが疑問でしょうがなかった。
能力とは全員にあるものだ。
だが、長髪は使わなかった。
何故だ? ……答えは目の前の奴が知っているか。
「……いいや、使っていなかった」
「そうですか」
明らかに声のトーンが下がった。
悲しんでいるのか?
「……ありがとうございました」
俺は能力を使わなかった理由が気になり始めた。
「俺に教えてくれ。なぜ長髪が能力を使わなかったのかを」
魔族は少し迷った素振りを見せたが、
「ダイソンを倒したあなたには聞く権利があるでしょう」
と、話してくれるようだ。
「簡潔に話します。
ダイソンは昔約束したんですよ。剣を教えてくれた先生に、『自分は剣士として生きていく』って。そんな約束をしてからは能力を封印しています。笑っちゃうでしょう。自分の命をかけてまで約束を守って剣士として死んでいったんですから」
魔族は悲しそうに笑う。
さっきまでの笑みはいったい何処にいったのやら。
しかし、あの長髪がそんな約束を……。
少ししか受けなかったが、確かに凄い剣技だった。
最後まで剣士として死んでいく。カッコいいな。
「ダイソンは立派に死んでいったよ」
つい、そんなことを言ってしまった。
「……そうですか。それは本望でしょうね」
魔族が少し笑ったような気がした。
「さて……では私も聞きたいことは聞けたので帰らしてもらいますね♪」
魔族がさっきまでと同じ口調に戻り、俺へ背を向け歩き出した。
突然のことで反応が遅れる。
「待て!」
すかさず能力を発動使用とする。
「後は任せましたよ♪」
「分かっている」
モンスター使いと入れ替わるように大男が前に出てくる。
「お前は」
最後の魔族。
「ここからは俺が相手をしよう」
このデカイ壁の後ろにはもう魔族はいなくなっていた。
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