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86「ミドリガメ」【挿絵あり】
とある大手に勤めるOLの方から聞いた話。
出勤後、給湯室で来客用の湯のみを洗おうと、
水道の蛇口をひねった。
すると、水流と共に何かがカランと落ちてきた。
「……ミドリガメ?」
小さな甲羅がそこにはあった。
まさか蛇口から出てきたわけではないだろうと
見ていると、もぞもぞと手足と思われる四肢が
甲羅から出てきた。
「やけに細いな、と思って見ていたんですけど」
それは小さな人形のような、細い手足を生やすと、
二本足で立ち上がった。
明らかに亀のそれではない頭を左右に振ると、
排水溝に向けて止まった。
「後ろ―――
というか真上からしか見ていなかったので、
それが人間の顔をしていたかどうかは
わかりませんが」
その排水溝には、ゴミ防止用のキャップが
取り付けられていたが、まるで体を溶かすようにして、
鉄製のそれを無視して入っていってしまった。
「何だったんでしょうか、あれは」
後には強烈な生臭い匂いが残されたので、
彼女は洗剤で流し場全体を洗うようにして
必死にその匂いを消したという。
場所は、六本木の有名なオフィスビルだったそうだ。





