ネコとスッポン
民明書房刊『相容れぬ双璧―次元の壁を越えられぬ者たち―』より抜粋
描鼈の絶
古来、月とスッポン(月鼈)という言葉は、形こそ似ているがその本質が天と地ほども違うことを指してきた。しかし、江戸時代の比較生物学者にして奇行で知られた**比類 類三郎が、その著書『不条理なる対比』で提唱したのが、この「ネコとスッポン」**である。
これはもはや「違い」を論じる次元を超え、**「比べるという行為そのものが理性の敗北である」**ことを示す、究極の虚無的格言である。
「全き異質」の構成要素
類三郎は、両者の特性を以下の三点において徹底的に分析し、その「不可能性」を証明した。
物理的状態の乖離(固体と液体の壁): ネコは「軟猫の歩み」で見た通り、液体のように形を変え、束縛をすり抜ける。対してスッポンは、泥の中に沈み、一度噛み付いたら雷が鳴るまで離さないという「超固着」の性質を持つ。武術界ではこれを**「流動と停滞の断絶」**と呼び、水と油以上に混じり合わない関係の象徴とする。
生存戦略の逆極(太陽と泥): ネコは日向ぼっこを愛し、高い場所から下界を見下ろす「天の視点」を持つ。一方でスッポンは泥底を這い、水面下から敵を伺う「地の視点」を貫く。この垂直方向の決定的なズレは、両者が同じ地平で会話を交わす可能性を根底から否定している。
反応の不条理(無視と執着): 「ネコに説法」の通り、ネコは全てを無視してあくびを漏らす。スッポンは、一切の説法を聞かずに指を噛み砕く。一方は「無干渉」、他方は「過干渉」。この両極端な反応を同一の物差しで計ることは、定規で温度を測ろうとするほどに滑稽な試みである。
現代の兵法としての解釈:カテゴリー・エラーの回避
現代ビジネスにおいて、全く異なるビジネスモデルや価値観を無理に比較しようとする上層部に対し、賢明な「社猫」はこの格言を引いて諫める。
「それは、ネコとスッポンを戦わせるようなものです」
この一言には、「そもそも議論の土俵が違うため、比較すること自体がリソースの無駄である」という痛烈な皮肉が込められている。無理な比較は、前述の「鬼の乱獲」よりもさらに不毛な、知性の浪費を生むだけなのである。
豆知識:類三郎の最期 比類類三郎は、人生の最後に「ネコとスッポンを結婚させる」という禁断の実験に挑もうとしたが、その直前に自分の指をスッポンに噛まれ、それを見ていたネコにあくびをされたショックで隠居したという。これが、異なる性質のものを無理に融合させようとして自滅する**「無謀の融合」**の語源となった。




