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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
79/85

物色

渡仲が、魚眼レンズ越しに変顔をしている。

そうか、この男はここに来た事があるんだった。

それから渡仲はインターホンを二連打すると、別パターンの変顔を見せた。


面倒だ。

そう思いながら、ドアを開けた。


 「あっ、どうもー! 〝イーブーキーツ〟でぇーすっ!」

渡仲は両手を広げて満面の笑みを見せる。


〝唯武樹〟と〝Uber Eats〟を掛けているのか。

鬱陶しい。


「どうしたんですか」

「依頼が全然来なくてさ、暇だから来ちゃった」

〝来ちゃった〟じゃねぇよ。

遠距離の彼女かよ。

理由になってねぇよ。


「飯食ったか? 牛丼買ってきたから食おうぜ」

渡仲はUber Eatsのリュックを背負った背中を僕に見せた。


 「じゃ、お邪魔しまーす」

 「えっ、ちょっ……」

お邪魔すんのかよ。

渡仲は僕に有無を言わさず玄関に入って来た。


 「あっ、今ってお前一人?」

 「えっ、あっ、はい」

 「じゃあ大丈夫か」

渡仲は靴を脱ぎ捨てた。

そういう問題ではない。


 「ふーん、こういう感じなのか」

ドアを開けた渡仲はそう言ってリュックを置いた。


 「何か、女の匂いしねぇな」

どんな特殊能力だよ。


 「でも、一人暮らしにしてはいい部屋じゃねぇか。いくら?」

家賃を言うと、渡仲はマスオさんの様な声で驚いた。


 「いわくつき?」

 「いや、違います」

 「へぇー、いい部屋見付けたな。優良物件じゃねぇか。どれどれ、家宅捜索といきますか」

渡仲は改めてリビングを眺める。

何だよ、家宅捜索って……。

すると渡仲は、DⅤDで埋まった棚に目を付けた。


 「〝SKY・DRIⅤE〟好きなの、お前」

 「あっ、はい」

 「ふーん」

渡仲は棚に並んだDⅤDの内の一枚を手に取って眺める。


 「あの、何をしにここへ……?」

僕が訊くと渡仲は、「へっ?」と、こちらを向く。


 「用件は何なんですか」

 「用件ってお前、そんな堅苦しい事言うなよ。別ににいいじゃねぇかよ、用件なんかなくてもよ」

 「普通に不法侵入じゃないですか」

 「不法侵入って、俺はお前の師匠だぞ?」

 「不審者が師匠だっただけの話ですから」

 「不審者ってお前、人聞きの悪い」


住所というお客さんの個人情報を悪用しているじゃないか。

この配達で知った女の家に行ったりしてないだろうか。

それから渡仲は「何か面白れぇもんねぇのかよ」と、棚や引き出しを物色していく。

完全に不審者だ。


 面白い物が見当たらず、諦めたらしい渡仲は「じゃあ、飯にすっか」と、リュックから取り出した牛丼と割り箸を、僕と自分の手元に置き、今度はコンビニかスーパーで購入したらしい紅しょうがを取り出し、封を開けた。


 「俺さぁ、牛丼は紅しょうが山盛りにしないと気が済まないわけ。何なら紅しょうが食う為に牛丼食ってるみたいなところあるからな。牛丼は紅しょうが食う口実」

渡仲はそう言いながら牛丼を紅しょうがで覆った。


 「ほれ、お前も」

 「あっ、はい」

渡仲に紅しょうがを渡され、箸で摘まんだそれを牛丼に添えた。


 「それじゃあ普通に一袋分じゃねぇか。せっかく買ったんだからもっと載せろよ」

その後、〝もっともっと〟と何度か促され、結局〝どれ、よこせよ〟と、渡仲と同等の紅しょうがを載せられた。


 「じゃ、いただきまーす」

 「いただきます」


テレビ番組に大笑いしながら牛丼を平らげた渡仲は、「じゃあ、配達があるからこの辺で」とリュックを背負って帰った。

ただ食事しに来ただけかよ。

まぁ、奢ってくれたからいいか。

遠回しに、励ましてくれているのだろうか。

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