封筒
「ハッピバァ~スデェ~イトゥ~ユ~」
歌いながらショートケーキを持って厨房から出て来た店員に、釣井は感激する。
「ハッピバァ~スデェ~イディ~アッ、ス~ちゃ~ん! ハッピバァ~スデェ~イトゥ~ユ~!」
歌い終えた店員と参田が盛大に拍手する中、釣井は〝28〟の形のキャンドルに付いた火を吹き消した。
「おめでとうっ!」
店員と参田は改めて拍手する。
「はい、スーちゃん。プレゼント」
「ありがとうっ!」
店員は腰に巻いたエプロンのポケットから、星柄の包装紙で封筒の形にラッピングされたものを取り出し、釣井に渡した。
「現金?」
渡仲の言葉に大笑いした店員は、「まぁ、それが一番間違いないし、手取り早いよなっ!」と返す。
「あっ! 嬉しいっ!」
包装紙を開けた釣井はその中身に感激した。
カフェのギフト券らしい。
「アタシ、このお店、大好きなのっ!」
釣井は手にしたギフト券を眺めながらはしゃぐ。
「あら、良かったぁ」
「すごい嬉しいっ! ありがとう、ゲンちゃんっ!」
「いえいえ」
「じゃあ、私も」
参田はカバンに手を入れる。
「はい、スーちゃん。お誕生日おめでとうっ!」
参田が取り出したのは、茶封筒だった。
「ありがとう、先生」
「中、見てみてよ」
「まさか、今度こそ現金?」
渡仲は釣井が茶封筒を開けるのを興味津々で見届ける。
すると、大笑いし始めた釣井が中身を抜き取ると、それは店員が彼女に渡したものと同じ店のギフト券だった。
「おじさん二人、被ったのかよっ!」
「参ちゃんも?」
渡仲と店員も大笑いする。
「いやぁ、ごめん、スーちゃんっ! まさか、ゲンちゃんも同じものだと思わなくて」
「いいのいいの、アタシこのお店、大好きだからっ! あと、二人被ったのが面白いしっ! ホント、息ぴったりだねっ!」
釣井は笑いながら言う。
「でも、袋のお洒落さは俺の勝ちだなっ!」
店員は大笑いする。
「ホントだよなっ! 茶封筒はないよなっ! 味気なさ過ぎるだろっ! デザイン性ゼロじゃんっ!」
「そうかな? あっはっは」
渡仲にも笑われた参田は照れた様に返す。
「あっ、すみません、何も用意してなくて」
知らなかった故に仕方ないが、マナーに則って詫びておく。
「いいのいいの、気にしないで」
「近い内、渡します」
「そんなそんな」
マナーに則ってそう返したらしいが、あまり強く引き止めている様には見えない。
「じゃあ、俺と汰駆郎は愛情をプレゼントって事で」
「買う気ないじゃん。あんたは何か買ってよ。あんたの愛情はいらないわ」
店員は大笑いすると、「いやぁ、スーちゃんが二十八歳かぁ」と、呟く。
「何だか、感慨深いね。小さい頃から知ってるからね」
参田は微笑みながら返す。
「でも、若いよねぇ」
「うん、戻りたいよねぇ」
それから全員でケーキを食べ終え、お開きとなった。
「じゃあね、ゲンちゃんっ!」
「またいつでもおいでねっ!」
「うんっ! ありがとねっ!」
「おうっ! 気を付けてっ!」
釣井は店員とハイタッチと交わし、店を出る。




