特別
「おっ! 久し振り、参ちゃん」
先頭を歩き、店の引き戸を開けた参田は店員に、「久し振り、ゲンちゃん」と、手を振り返す。
「ゲンちゃーんっ!」
「スーちゃーんっ! 誕生日おめでとうっ!」
「ありがとうっ!」
釣井と店員はハイタッチを交わす。
「覚えてたんだね」
「そりゃ、可愛い姪っ子ちゃんの誕生日だもん。覚えてるよ」
「うぃっす、おっちゃん」
最後に入店した渡仲が店員に声を掛ける。
「おっ、久し振りだな、唯武樹ぃ! 元気だったか、おいっ!」
「おう、まぁな」
「最後に顔出したのいつだっけ?」
「おっちゃんが松葉杖の時だったよな」
「ああっ!」と、釣井と店員は声を揃える。
「おっ、スーちゃんの彼氏」
店員は僕を見て言った。
「えっ、お前等、付き合ったの?」
渡仲が丸くした目で僕と釣井を交互に見る。
「いや、違うからっ! ゲンちゃん、変な事言わないでよっ!」
釣井に言われた店員は「あら、違うのかい」と、笑って返す。
テーブル席に案内されると、何となく事務室と同じ並びで座った四人それぞれの手元に、お通しらしい茄子の煮浸しと置かれた。
「それでは、アタシのバースデーを祝してっ!」
「乾ぱぁーいっ!」という声とジョッキを合わせる釣井と参田に倣う。
そして店員も、ちゃっかり用意していたらしい自分のジョッキで加わる。
「何で本人が仕切るんだよ。てか、何で店員も吞んでんだよ」
渡仲は言う。
「今日はアタシの誕生日だから、いいもん……」
「ねー!」と、釣井と店員は顔と声を合わせる。
「ビールが丁度一人分余っちゃったからしょうがないもん……」
店員の掛け声で二人はまた、「ねー!」のくだりを行う。
「いや、それはおっちゃんのさじ加減だろ。おっちゃんがわざわざ自分用に注いだんだろ。〝余っちゃった〟って何だよ。何が〝丁度〟だよ」
渡仲にそう言われた店員は大笑いする。
「いやぁ、良かったぁ、スーちゃんの誕生会の開催場所にまたここが選ばれてぇ」
「そりゃ、やっぱりゲンちゃんの料理食べないと年取れないからね」
「じゃあ来ない方がいいだろ」
「分かってないなぁ、唯武樹ぃ。年は取りたくないけど誕生日は好きなの」
店員は更に大笑いする。
「スーちゃんが二十八歳かぁ」
呟いた店員に釣井は「年齢までよく覚えてたね」と返す。
「そりゃ覚えてるよ。何だか、あっという間だよね。あんな小さかった子が」
「そうだよねぇ」と、参田は返す。
通常より量が多いらしい料理。
数種類の食材がプラスされているらしい料理。
アレンジが加えられているらしい料理。
サービスで用意された、そもそもメニューにはないらしい料理。
店員は釣井の幼少期の話に時折加わりながら、特別仕様らしい料理をテーブルに置いていく。




