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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
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落胆

終業時間になり、事務室のカレンダーにふと目をやると、この職場に転職して、三ヶ月が過ぎていた事に気付く。

三ヶ月という月日は本来、こんなにもあっという間らしい。

民家の光景が脳内に現れる時間が次第に長くなっていき、それを十数秒保てる様になった現状を、かなり筋がいいと称賛され、テレポーションという未だに訳の分からない能力でも上達すると達成感を覚えるらしい事が分かった。


 一週間の修行と業務が終わった。

沈むのを忘れたかの様な太陽が照らす煉瓦道を歩く。

今日こそは……。

今日こそは……。

コンビニに近付きながら、何度も祈る。


 息を吐く。

自動ドアが開いた。

緊張が走る。

恐る恐る、店内に入った。

頼む……。

頼む……。


 恐る恐る、レジを覗く。

高校生のアルバイトらしい眼鏡を掛けた青年の店員が、ぼそぼそした声で接客していた。

奥のレジへ向かう。


 そこに店員はおらず、〝レジ休止中〟の札が置かれている。

他の店員は見当たらない。

頼む……。

頼む……。

まだ、可能性はある。


 店内を探し回っていると、〝STAF ONLY〟と書かれたドアが開いた。

それを、見つめる。

緊張が走る。


 現れたのは、太ったおばさんの店員だった。

またか……。

この店はいつも二人体制であるが故、今日も会えない事が確定してしまった。

もう、何ヶ月もこの組み合わせだ。

全身の力が抜け落ちた。


 「いらっしゃいませ」

浴用のない声が、僕の胸を貫通した。

つちださんはもう、辞めてしまったのだろうか。

もう、彼女には会えないのだろうか。

信じたくないが、これだけ会えないという事は、やはりそうなのだろう。


 〝お久し振りですね。体調でも悪かったんですか〟というシミュレーションが、儚く消えていく。

〝つちださんは辞めたんですか〟と、他の店員に訊く勇気はない。

渡仲の様なタイプが訊くのは自然なのだろうが、その対角線上にいる様な僕の場合、不審者に思われかねない。

息を吐き、店を出る。


 道路を歩いていると、つちださんとの会話が、シャボン玉の様に次々と脳内に現れた。

畜生……。

結婚したのだろうか。

それとも既に結婚していて産休に入ったのだろうか。

確かに、彼女の年齢を考えると、それ等の可能性が高い。


 畜生……。

渡仲と釣井から毎日LINEでエールを送られていた、インフルエンザの療養期間中に辞めたのだろうか。

そうに違いない。

彼女なら辞める事を僕に教えてくれる筈だ。


 畜生……。

ウイルスめ……。

よりによって最悪のタイミングで潜伏しやがって……。

畜生……。

畜生……。

畜生……。


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