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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
65/85

光景

 「おっ、もしかして出来たのか。それが出来たらすぐテレポーション出来るよ」

夢でも見ているかの様だった。

頭には重みが加わっている。

じわじわと脳内に現れて消えていった、民家の光景。

画面上のものと同じだったが、通行人が横切り、近くの草木が揺れていた。


 「びっくりしたろ? 初めての時はびっくりするよな。遠くテレポーションしようとすると、その場所の光景が浮かぶわけよ。千里眼みたいだろ?」

テレポーションを極めると、あんな事が出来るのか。

いよいよ、漫画がSF映画の様だ。


 「だから、まずはそれが出来る練習だな」

そう言った師匠は、咥えた煙草にジッポーライターで火を点けた。

やたらと大きな音を立て、やたらとカッコ付けた動作に見える。


 「まぁ、慣れてくると、首の動きと一緒に頭ん中の映像も角度が変わるわけよ。プレステⅤRみたいだろ?」

プレステに限らなくていいだろ。


 「じゃあ、やってみ」

師匠はそう言うと、煙草を吹かす。

引き続き、画面上の民家を凝視し続けると、再び脳内に同様の光景が浮かんだ。

だが、またしてもそれはすぐに消えていった。


 「まぁ、最初はすぐに消えるけど、その内、慣れるよ」

画面上の民家を凝視する。

じわじわと同様の光景が脳内に浮かび、すぐに消えていく。

それが、小一時間続いた。


 「よし、休憩しよう。人間の集中力って何十分かが限界らしいからな」

〝何十分か〟って、十の位によって大分変ってくるだろ。


 「おっ、可愛いじゃんっ!」

 スマホを持ってあぐらをかいた師匠は、三本目を吹かしながら言った。

やはり、マッチングアプリが気になっていたらしい。

師匠は画面に釘付けで、次々とリアクションしていく。


 「うわ、ブスじゃん」

女なら誰でもいいかと思いきや、そういうパターンもあるらしい。

師匠は次々と〝合格っ! 〟、〝採用っ!〟などと大声を出す。

それ等の定義はどう違うのかは不明だが、マッチングアプリ上での女を査定しているらしい。


 五、六回に一回の頻度で〝不合格っ!〟、〝不採用っ!〟が現れるその時間が十分程度続くと師匠は、「よし、再開すっか」と、立ち上がった。

意外にも減り張りをちゃんとしているらしい。

〝師匠〟という肩書きが彼を更生させたのだろうか。

釣井は、その目的もあって彼を師匠に起用したのかもしれない。


 「はい、次こそ出来る」

師匠は僕にさっきと同じ民家の画像を見せる。


 「リラックスね。リラァーックス」

息を吐く。


 脳内に、民家の光景が現れた。

数秒間残ったそれは、じわじわと消えていった。


 「いいねぇ。今、出来たっっしょ? その感覚忘れんなよ」

再び画面を凝視すると、同様にじわじわと光景が現れる。

それが何度も繰り返される。

心なしか、光景が現れるのに要する時間が短くなっている気がする。


 「よし、そこまでっ! 昼にしよう」

いや、早過ぎるだろ。

そう思ったが、時刻は十一時五十分だった事に驚いた。

相当、集中していたらしい。

すると、思い出したかの様に、疲労が体を覆っていった。

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