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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
64/85

通知

 「ちなみにこの家はあっちの、十キロぐらい離れたところにある」

師匠は遠くを指差した。


 「じゃあ、やってみ」

画面上の民家を凝視する。


 「で、一キロ以上離れた場所にテレポーテーションしようとすると——」

その時、師匠のスマホにLINEが届いた。

〝ありさ@新米保育士様からのメッセージ〟という通知。


 「おっ、お誘い来た。ちょっと失礼」

師匠はスマホを僕の手から取り、それを弄る。

集中がリセットされてしまった。


 「おっ、すげぇ可愛いじゃんっ! 保育士ってそそられんなぁ!」

マッチングアプリだろうか。


 「あっ、ポイント足りねぇ。あとで返信すっか」

師匠はスマホを再び僕に渡した。


 集中し直して間もなく、再びLINEが来た。

〝さおり@ママ活OK様からのメッセージ〟という通知。

またか……。


 「おっ、どれどれ」

またぞろ、集中がリセットされた。


 「へぇー、四十歳には見えねぇなっ! すげぇ美人じゃんっ! 奇跡のアラフォーじゃんっ! 美魔女じゃんっ! 会いてぇなっ!」

師匠はそれから、「ほら、見てみっ!」と、僕にその画面を見せる。


 「あっ、はい……」

相手にする面倒さと、集中を妨げられている事に対する苛立ちを覚える。


 「ママ活って最高過ぎるシステムだよなっ! 一石二鳥過ぎじゃねっ!」

満足するまではしゃいだらしい師匠にスマホを渡され、改めて、画面に集中する。


 すると、またぞろLINEが届いた。

〝ちか@恋愛未経験ナース様からのメッセージ〟という文字。

さっきの二人とは違うアプリらしい事がアイコンで分かった。


 「ん? ナース? ちょっと待って」

 「いや、ちょっ……」

師匠は、僕から取り上げたスマホの画面にはしゃぐ。


 「もう、通知切って下さい」

 「おう、ごめんごめん」

師匠が操作したスマホを受け取る。

すんなりと応じてくれるのは少しに意外に感じた。

画面上の民家を凝視する。

集中。集中。


 数分、画面に集中していると、LINEが来た。

通知オフにしていなかったのか。

〝ありさ@新米保育士様からのメッセージ〟という文字。

今までとは違うマッチングアプリらしい事がアイコンで分かった。


 「おっ、さっきの娘じゃん。この娘も掛け持ちしてんのか。てか、ごめん。こっちも通知オフるわ」

集中し直すと、すぐに別のマッチングアプリからの通知が来る。

それが、再三再四繰り返された。


 「ちょっと待って。全部の通知オフるわ」

師匠はスマホを操作する。


 「LINEの通知をオフにすればいいじゃないですか」

 「そうかっ! その手があったかっ! 一個一個オフんないでLINE全体をオフればいいのかっ!」

その発想がなかったのか。


 「よし、これで完全にオフったぞ」

師匠は操作したスマホを僕に渡した。


 「集中集中っ!」

さっきからお前が妨げてんだろ。

そう思いながら、気を取り直す。


 「あっ、そうだ。遠くの場所にテレポーテーションしようとすると——」

 「うわっ!」

気付くと僕は、尻餅を着いていた。

今のは、一体……。

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