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「あ~た~らし~い、あ~さが来たっ! っと」
釣井が口ずさみながら、ラジオ体操を再生した。
いつもの苦行が始まる。
前の会社にいた時間とは比にならない程楽だが、やはり気恥ずかしい。
飛び跳ねる動作が特にそうだ。
何故、毎朝第二までやらなくてはならないのだろう。
この風習は不要だといつも思うが、あの地獄から脱出する事が出来た代償だと、自分に言い聞かせている。
ラジオ体操が終わると、参田は左手をテーブルに置き、右手で腰を叩く。
「先生、腰痛いの?」
釣井が声を掛ける。
「大丈夫。ただ、マッサージしてれうだけだから」
「マッサージなの? 紛らわ――」
「いててててっ」
「ほら、やっぱ痛いんじゃん。何の見栄なのさ。てか、何でそんな時にラジオ体操なんかやるのさ」
「治るかなと思って。へへっ」
「ラジオ体操にそんな効果ないでしょ」
「まぁ、大丈夫だよ、私は腰痛のプロだから」
「何が腰痛のプロよ」
釣井が呆れながら椅子を引いた時、事務室に渡仲が来た。
アピールでもしているかの様にやたらとロゴの大きいPLAY BOYのTシャツと、やたらとダメージが施されたジーンズという相変わらずの出で立ちに、釣井の怒号が飛ぶ。
「いつになったらスーツ着て来るのさっ! てか、あんた何、Tシャツで自己紹介してんのさ」
そう言われた渡仲はげらげらと笑う。
「笑うなっ! 格好もだし、また五分遅刻だかんねっ!」
「いや、まずテレポーテーションしなかった事を称えてくれよ」
「毎日、テレポーテーションなしで無遅刻無欠勤なら称えます」
「遅刻確定してんのにテレポーテーション使わなかったんだぞ? 偉いだろ」
「遅刻確定してる時点で偉くないです」
「テレポーテーションして遅刻しないのと、テレポーテーションなしで遅刻しないのどっちがマシなんだよ」
「どっちもご法度です。ほら、お弟子さんが待ってるから」
「ほーい」
それから渡仲は、持っていたコーラをがぶ飲みした渡仲は、「よし、行っか」と、僕の肩に手を置いた。
「それでは只今より、修行を始めるっ! 礼っ!」
道場に着くと、モードを切り替えた師匠は号令を掛けた。
やれやれと、仕方なくそれに従う。
「よし、今日はまた、更に上のステージに行ってもらうぞ」
師匠はそう言うと、スマホを弄り、それの画面を僕に見せた。
小さな民家の画像だ。
「クリスマス本番は、届ける家の画像を見てそこにテレポーションすんだけど、やってみ。つまり、この修行がファイナルステージ」
今度は画像を見て、その場所にテレポーテーションするのか。




