同類
時刻は十八時五十五分だった。あと五分。
渡仲はもう店内にいるのだろうか。
〝神風〟の文字に向かって、思わず息を吐く。
合コンか……。
僕はこれから、合コンするのか……。
合コンをしなくてはならないのか……。
憂鬱だ……。憂鬱過ぎる……。
俯き、今度はアスファルトに向かって息を吐く。
何故、こんな目に遭わなくてはならないのだろうか。
中止にならないだろうか。
聞き覚えのある、男の話し声が遠くからゆっくりと近付く。
女の笑い声が覆い被さるそれの方を見ると、その光景に、目を疑った。
袖を捲った黒いスーツジャケットとダメージジーンズを身に着け、茶色の大きなサングラスを掛けた渡仲が、両サイドを歩く女の肩を掴みながら近付く。
陽キャやチャラ男を絵に描いた様なその光景を、思わず凝視する。
彼が何やら自慢話をしているのが、その得意気な表情から見て取れる。
「おー! 汰駆郎っ! 来てたのかぁ!」
この男、マジか……。
「ここ来る時、この娘達ナンパしてさぁ、で、よく見たら二人、これから合コンする娘達だったわけ」
どんだけ陽キャなんだよ。
どんだけチャラ男なんだよ。
合コンの会場に向かう道すがらナンパをしようとする精神に、呆れた気持ちと驚愕で言葉が出ない。
「ちぃちゃんと、まやっち」
もう紹介する立場になっている。
しかも、もうあだ名で呼んでいる。
「ちはるでぇーす」
左側の女が、にこっと笑いながら目元で横にしたピースを見せた。
パーマをあてているらしい茶髪の隙間から覗く、金色のやたらと大きなリングピアスが揺れている。
「まやでぇーす」
ポニーテールに束ねた金髪の女も同じポーズをして名乗る。
「あっ、こいつがもう一人の男の、汰駆郎」
渡仲が僕を指してそう言った。
「あっ、どうも……」
僕が会釈すると、「よろしくお願いしまーす」と、二人の女は返した。
「じゃあ、行きましょうか」
「いえーい!」
二人の女は挙げた両方の拳を振る動作をしてはしゃぐ。
淡いピンクのTシャツと、白いホットパンツ姿の、ちはると名乗った女。
白いTシャツの上に羽織って裾を結んだチェック柄のワイシャツと、デニム生地のミニスカート姿の、まやと名乗った女。
下着と然程変わらない様な肌の露出度と、そのテンションから、彼女達が渡仲と同様の部類だと分かり、余計憂鬱になった。
店に入る三人に、仕方なくついていく。
既に空気が出来上がっている。
既に輪が出来上がっている。
今から合コンを始める意味が分からない。
三人だけでいいじゃないか。
完全に僕はいらないじゃないか。
憂鬱だ。憂鬱過ぎる。
僕は、店の出入り口という、地獄の門を通った。




