口笛
母親とその再婚相手からのネグレクトが原因で、五歳から児童養護施設〝なごみの園〟で生活する七歳の少女。
キラキラネームのお手本の様な名前だ。
ニュースで度々目にする、親から虐待を受けた子供に割りとありがちな気がする。
虐待をする様な親はキラキラネームをつける傾向にあるのだろうか。
いや、我が子にキラキラネームをつける時点で虐待は始まっている。
そんな気がする。
「おっ、〝なごみの園〟かぁ。最近ここの子、増えてんだよねぇ」
釣井は隣からパソコンの画面を覗く。
「うわ、てか、キラキラ」
「どんな名前?」
そう訊いた渡仲は釣井の説明を聞くと、仰天した。
「すげぇキラキラだな」
「あっ、こっちもなかなかだよ」
「何て名前?」
釣井が言った名前は、確かに衝撃的なものだった。
参田と渡仲はそれをオウム返ししながら目を丸くする。
「へぇー、そんな名前の子供さんがいるんだねぇ」
「何でそんな名前つけるかねぇ」
それから、いつもの様に各々が見付けたキラキラネームを紹介する流れが始まったが、渡仲はただただ漢字に弱いらしい故に、趣旨にそぐわない、普通に読める名前ばかり紹介していく。
釣井が呆れながら正解する度、彼は悔しがる。
次の子供のプロフィールを見る。
またぞろ、キラキラネームだ。
何故、その字でそう読むのだろう。
あまりにも強引過ぎる。
その少年は、女手一つで育てていた母親が事故死し、児童養護施設〝ラフハウス〟で生活する七歳らしい。
そして、経歴の下には一昨年の西暦と、仮面ライダーの変身ベルトらしいおもちゃの商品名が赤い文字で表記されている。
「あっ、懐かしい、この男の子っ! 前にね、アタシがおもちゃプレゼントしたの。ゲーム機だったかな。あっ、違う、変身ベルトだ。仮面ライダーの。そうそうそうっ! 思い出したっ!」
釣井は僕のパソコンを覗く。
その時、渡仲が上機嫌に口笛を吹き出した。
何故か、〝犬のおまわりさん〟だ。
「ちょっ、唯武樹うるさい」
口笛がぴたっと止まる。
それから渡仲は鼻歌を歌い出した。
何故か、〝アルプス一万尺〟だ。
「うるさいって。口笛が駄目なら鼻歌も駄目だから。その妙にカッコつけたアレンジもイラッと来るし」
鼻歌がぴたっと止まる。
「むぁ~いにっちむぁ~いにっちぶぉくらはてっぷぁんのぉ~」
「うるさいっつの。鼻歌が駄目なら歌も駄目に決まってるでしょ。〝むぁ~いにっち〟じゃねぇよ」
「うぇいで~焼かれ~て~」
「もういいって。てか、何で童謡なの、さっきから」
「嫌ぁ~になっちゃうな~」
「歌詞違うし。〝なっちゃうよ~〟だし」




