学生
「うわ、マジでっ! おっしゃー!」
魂が抜け出た様な表情でしばらく弄っていた渡仲は突然、大声を出した。
「びっくりしたぁ! 急に大声出さないでっ!」
釣井が喝を入れるが、渡仲は構わずスマホの画面を見下ろしたまま立ち上がり、何やら奇声を発しながら飛び跳ね出した。
「ヒットしたぁ! よっしゃー!」
「うるさいなぁ! 何、何なの? 感情の起伏ヤバ過ぎでしょ」
「すげぇ可愛い女の子ヒットしたぁ! うっしゃー!」
「何、マッチングアプリィ?」
「そうっ! ホント、すげぇ可愛いっ! ほら、見てみっ!」
釣井は渡仲が伸ばした手に持つスマホを受け取る。
「ああ、可愛いけど、ライトがっつり過ぎない?」
「だったら何だよ」
「実際こんなんじゃないかもよ」
「そりゃそうだろ、自然発光してる訳じゃねぇし」
「いや、そういう事じゃなくて、こんなライトがっつりだったら実際より可愛く映ってんじゃないのって事」
「ライトでそんな変わんねぇだろ。可愛くない女の子がライトで可愛くなんのかよ」
「なるでしょ。あと、詐欺メイクだってあるし、今の時代、いくらでも加工出来ちゃうからさ、信用出来な……、って、ちょっと待って。その娘、まだ十九歳じゃんっ!」
「うん、そうだよ?」
「引くわぁー」
釣井はスマホを渡仲に返す。
「何でだよ」
「十代はないでしょ」
「でも、大学生だし」
「いや、大学生だったら何? 大学生なら引かないとかないし。肩書き関係ないから」
「あと、保育士志望らしい」
「いや、だから、だったら何なの? 何目指してるかは関係ないし。何志望でも引くんだけど」
「てか、この娘、〝すずね〟っていうのか」
「えっ、嘘」
渡仲は再び手を伸ばし、スマホの画面を釣井に見せた。
「あっ、ホントだ。アタシと同じ名前」
「こんな可愛いし、保育士志望もポイント高いのににそれが唯一の難点だよな。可哀そうに」
「ちょっとどういう事。難点じゃないし、可哀そうじゃないし」
「いちいち、こっちの〝すずね〟が過って鬱陶しいわ」
「鬱陶しいっていうか、会うなよ、十九歳と」
「ホント、名前がスズと同じっていうハンディキャップを背負ってるとは思えないぐらい可愛いな」
「ちょっとどういう事? ハンディキャップじゃないし。ブランドでしょ、ブランド」
「その名前で可愛い娘っていたんだな」
「はい、減給」
「ごめんなさーい。趣味はヒップホップ鑑賞か。意外だな」
渡仲は気にする事なくスマホに釘付けだ。
「まぁ、ヒップホップ好きに悪い人はいないからな」
「いや、いるでしょ。全然いるでしょ。むしろ悪い人のイメージだわ。ヒップホップが悪くなかったらどのジャンルが悪いの?」
「まぁ、レゲエ界隈は治安悪いよな」
「何、その偏見。何が基準なの。レゲエが悪いならヒップホップだって悪いでしょ」
釣井はそれから野菜ジュースのパックを折り畳みながら、「よし、一時になった。仕事だよ」と、号令を掛けた。




