消沈
アラーム音を止め、スマホを持ったまま目を擦りながら何気なくLINEニュースを開くと、目に留まった一行で思わず声が出た。
一気に目が覚めた。
無意識に伸ばした手でテレビのリモコンを掴み、電源を点ける。
丁度、芸人と女優の結婚が取り上げられていた。
二人のFAⅩを女子アナが読み上げている。
それから、二人の経歴を紹介するⅤTRが始まった。
数々の賞レースを総なめしながら関西を拠点に活躍し、瞬く間に全国区の人気者となり、現在はテレビとラジオ合わせて五本のレギュラー番組を抱えるお笑いコンビ〝オンラインズ〟のツッコミ担当、ワッショイ北林。
子役時代から活動し、今もなお、ドラマや映画、舞台、CMと引っ張りだこで、クセのある役や悪役までこなし、朝ドラの主演やアカデミー賞助演女優賞を受賞した経験もある実力派女優、冴島真梨亜。
本当に、驚いた。信じられない。
二人の熱愛報道など見た事がないし、噂など全く聞いた事がなかった。
何より、かなり意外な組み合わせだ。
度々バラエティー番組で容姿をイジられたり、自虐エピソードを話していた芸人が結婚。
しかも、〝なりたい顔ランキング〟とやらの常連らしい女優と結婚するとは。
まさに、美女と野獣だ。
二人の関係を事前に掴めなかったマスコミはきっと今頃、悔しい思いをしているだろう。
彼等の目を潜り抜け、結婚までに発展する芸能人は何だかカッコいいなとも思う。
もし自分が芸能人だったら熱愛報道は絶対に避けたい。
事実だとしてもデマだとしても、相当鬱陶しいに違いない。
不倫の場合、事実なら晒されるのは自業自得の様な気がするが、デマなら完全に名誉棄損だ。
以前テレビで、男女三人で道路を歩いていたのに自分だけを切り取られ、あたかも他の二人だけで歩いているかの様な写真と共に二人の熱愛報道が出回ったと、誰かが言っていたのを思い出す。
芸能人にとってマスコミは相当迷惑な存在に違いない。
「うぃーす」
ラジオ体操を終えて間もなく、ピンクのヒョウ柄とジーンズ姿の渡仲が来た。
「〝うぃーす〟じゃねっつの。時間過ぎてる。遅刻だよ、遅刻」
釣井がたしなめる。
「ちょっと、電車が混んでてさぁ」
「いや、混んでても乗れよ。言い訳になってないから。てか、またそんなチャラい恰好してるし」
「あっ、そんな事よりさぁ」
「〝そんな事〟じゃねぇよ。大した事だわ」
「冴島真梨亜ちゃんがっ!」
「そうそうっ! びっくりだよねっ!」
「もう俺、朝から滅茶苦茶ブルーなんだけどっ! しかも何であんな奴なんだよっ!」
「まさに美女と野獣だよね。ホントびっくり。まさかあの二人が結婚するなんてね」
ヤクルトをぐびっと飲んだ参田は、「ん、誰か結婚したの?」と尋ねた。
「うん、女優さん」
「あっ、女優さんね。そう言えば今朝ニュースでやってたな」
「ああ! マジショックだわ……」
「まぁ、気を取り直して、修行お願いしますよ、師匠」
釣井に促された渡仲は重い腰を上げた。




