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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
43/85

論争

 「私ね、以前、児童養護施設の施設長をやってまして、お二人はその施設で暮らしていたんです」

 「そうだったんですか」と、一応演技しておく。


 「で、アタシが中一で唯武樹が小六の時に、先生がやめたの。理由も言わず」

 「申し訳ないねぇ」

釣井の強い口調に参田は苦笑する。


 「まぁ確かに、〝サンタクロースになるからやめる〟っつったら頭おかしくなったと思われるよな」

そう言った渡仲に、「誰も信じないよね」と、参田と釣井は返す。


 「もう、皆泣いてたよね」

 「スズも泣いてたもんな」


 「泣いてないし」

 「泣いてたろ」


 「泣いてないって」

 「泣いてたろ。何なら一番泣いてたろ」


 「泣いてません。何なら一滴たりとも涙は出してません」

 「出してたろ。一滴どころか滝の様に流してたろ」


 「流してません」 

 「ガンガン泣いてたろ」


 「泣いてないし、そのオノマトペおかしくない? 泣く度合いの表現として〝ガンガン〟はおかしいでしょ。仮に泣いてたとしてもガンガンは泣いてないわ」

 「何で頑なに認めないスタンスなんだよ」


 「いや、スタンスも何も事実無根だし」

 「すげぇトリッキーな嘘つくじゃん。何か怖くなってきたわ」


 「全然こっちの台詞なんだけど。何で記憶がすり替わってんのさ」

正解はどちらなのか。トリッキーなのはどちらなのか。

両社共に一歩も譲らない争いの判定を委ねられた参田は、「覚えてなぁい」と答えた。

 「じゃあ、泣いたって事で」


 「どういう解釈なのさ。泣いてないし。まぁいいや。で、アタシ、高校卒業してからフリーターやっててさ、どのバイトもあんま続かなくて、ゲンちゃんの所で働かせてもらっててさ、ほんのちょっとの期間だったけど。それで、先生がお店に来て再会して、先生が誘ってくれたの。それからちょっとして、高校中退してニートやってたこいつをアタシがスカウトしたの」

 「ニートってそんな、人聞きの悪い。あの頃は女の子にお世話になってたんだよ」


 「〝お世話になってた〟って、ヒモってたんでしょ?」

 「またそんな人聞きの悪い」


 「どうせあれでしょ、次々にナンパして次々に乗り換えて次々にヒモってたんでしょ」

 「まあ、そうだけど」


 「ただのニートより質悪いじゃん」

 「質悪くねぇよ。俺が〝払え〟って言った訳じゃないし。大体、ナンパでゲットしたんだから立派な功績だろ」


 「〝ゲット〟とか言うな。品がないわ」

 「スズの泣き方の方が品なかったぞ」


 「だから泣いてないって。まだ言ってんの?」

泣いていたか泣いていないか論争が再び始まった。


 「大泣きだったよね、先生」

渡仲は再び参田に意見を求める。


 「えっ、まぁ、大泣きって言うか、ちょっと目が潤んでたような……」

 「ほら」

軍配が上がった渡仲はご満悦だ。


 「潤んでないし。誤審だよ、誤審」

釣井は憤る。


 「でも、私の記憶違いかも」

中立の意見を述べたつもりだったらしい参田は付け足した。


 「あっ、終業時間じゃん! デートなんで、帰りまーす」

渡仲はいつもの様にそそくさと帰った。

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