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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
42/85

珍名

 「アタシさぁ、人の名前見るの結構好きなんだよね」

パソコンの画面に目をやりながらペットボトルのミネラルウォーターをぐびっと飲んだ釣井は、それの蓋を締めながら言った。


 「〝こんな苗字があるんだぁ〟とか、〝これ何て読むんだろう〟とか、〝何でこんな名前付けたんだろう〟って名前、ちょいちょい見るじゃん? そういうのが何だか面白くて」

 「特に今はキラキラネーム時代だもんな」

 「そうそう、ホント、キラキラネーム多いよね」

 「なぁに、それ」

参田がヤクルトの容器をごみ箱に捨てながら尋ねると、「読めない名前」という渡仲と「読めない名前って事」という釣井の声が揃った。


 「ああ、読めない名前ねぇ。確かに読めない名前が多いねぇ、近頃は」

それから釣井と渡仲は自分の見付けたキラキラネームのプレゼン大会を始めた。

明らかに漫画のキャラクターから取ったでろう名前。

音の響きだけで特に意味がなさそうな名前。

無理矢理英語の読み方をさせた名前。

二人は盛り上がる。


 「汰駆郎君はキラキラネーム見付けた?」

釣井は僕のパソコンを覗き、画面上の名前を呟くが、そのレア度は低かった。


 「いいの見付けたら教えてね」

そう言った釣井が再び見付けたキラキラネームを発表すると、渡仲はそれに驚き、名付け親に呆れた。


 「近頃は何だかおしゃれな名前が多いから、人の名前を見るのが好きなスーちゃんには、打って付けの時代だねぇ」

 「うん、今は殆どがキラキラネームだよね」

 「確かにさ、名前って、人生のタイトルだからさ、どんな意味合いが込められてるのか気になるよね」

 「人生のタイトルねぇ……。先生、いい事言うじゃん」

 「えっ、そう?」

参田はにたっと笑う。


 「俺の唯武樹ってタイトルはどうやって付けられたんだろうな」

 渡仲が呟く。


 「アタシね、訊いた事ある。〝スズちゃんはどうしてスズちゃんっていうの?〟って。それがお父さんとお母さんとの一番古い記憶かな」

 「で、何て言われたんだよ」

 「それは忘れた」


 「忘れたんかい」

 「でも、〝寿〟って字は〝めでたい〟って事でしょ? だから、めでたい事がある人生を送ってほしいって意味と、丁寧な気持ちを持ってほしいって意味で〝寿々寧〟って付けてくれたんじゃないかな?」

 「憶測じゃねぇか」

 「四歳の時だもん。覚えてないよ」


 「てか、自分の事〝スズちゃん〟って呼んでたのか。キツいな」

 「キツくないし。子供ってそういうもんでしょ。皆、その時期は通るでしょ」

 「〝自分の事ちゃん付け期〟なんか通ってねぇよ」

 「そりゃ、そうでしょ。あんたが通ってたらそれこそキツいでしょ。女の子だけなんだから、〝自分の事ちゃん付け期〟が来るのは」


 「知らねぇよ、そのルール。てか、十年以上いたけどそんな奴一人もいなかったろ」

 「まぁ、アタシ達がいた頃はそうだったけど」

 「周期長いな」

 「でもさ、一人称が自分の名前のちゃん付けって、大体四歳まででしょ?」


 「いや、知らんけど、その相場は」

 「入って来る子って殆ど十歳前後だからいなかったんじゃない? あっ、そうだっ! 汰駆郎君に言ったっけ? アタシ達ね、児童養護施設で生活してたの」

釣井の言葉に「あっ、言ってなかった」と、参田と渡仲は口を揃える。

隠していた訳ではなかったらしい。

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