遮断
「アタシさ、今朝起きたら玄関だったんだよねぇ!」
席に着くと、釣井は笑いながら言った。
結局、あのまま朝まで熟睡していたらしい。そして、僕が介抱した記憶がないらしい。
「久し振りに吞み過ぎちゃった。ちょっと、頭痛いな」
それから、ラジオ体操第二が終わったタイミングで入社して釣井に一喝された師匠に因る修行が始まった。
「今日は、ネクストステージに上がって貰います」
弟子である僕にフラフープを配置させた師匠はそう言い、大きなドクロマークがデザインされた黒いロングTシャツの左袖に巻き付いたペイズリー柄の白いバンダナを解いた。
「あっ、ちょっ」
背後にテレポーテーションしたらしい師匠は僕の目をバンダナで覆い、それをきつく縛った。
「この様に目隠しをした状態でテレポーテーションをして貰います」
目隠しをしてテレポーテーションか……。
「次々と遠くにプレゼントを運ぶので、見えない目的地へのテレポーテーションが出来なくてはなりません」
成程。師匠が初めて言った師匠らしい言葉に納得した。
「では、始めっ!」
息を吐く。
「フラフープを思い浮かべてぇっ!」
十数秒が経過した。テレポーテーションが出来ただろうか。
テレポーテーションは、目的地の数センチ上に移動するパターンと、着地した状態のままのパターンがある故、後者の場合、目隠ししていては分からない不便さに若干の苛立ちを覚えながらバンダナをずらすと、位置は変わっていなかった。
「勝手に外さないっ! 集中集中っ!」
バンダナを付け直し、再び数メートル先のフラフープを思い浮かべる。
いつもならもうとっくにテレポーテーションが出来ている筈だが、なかなか師匠からのOKが出ない。
フラフープを思い浮かべる。
数分後、体がすとんと落ちる感覚を覚えた。
「はい、一つ目クリアァ!」
ようやく、テレポーテーションが出来たらしい。
今まではフラフープを凝視し続ける事に因ってテレポーテーションが出来ていたが、目隠しをした状態だとこんなにも難しいのか。
「はい、次ぃ!」
再び息を吐く。二つ目のフラフープを思い浮かべる。
一分。二分。
「はい、オッケー! 次、三つ目っ!」
しばらくすると、師匠が言った。二つ目をクリアしたらしい。
次で三つ目。目隠しをした状態だと、こんなにも時間が掛かるのか。
息を吐く。三つ目のフラフープを思い浮かべる。
一分。二分。三分。
「違う違うっ! やり直ぉーしっ!」
師匠に言われ、バンダナをずらすと、体は目的地の数メートル横だった。二つ目のフラフープに戻る。
少し頭が重い。必要な集中力に比例して、疲労が積み重なっていく。
目隠しをしていると、これまでの何倍もそれ等を伴うらしい。
息を吐く。
一分。二分。三分。
「はい、お見事ぉ。次、四つ目ぇ!」
クリアしたらしい。
一分。二分。三分。
体がすとんと落ちた。
「はい、五つ目クリアァ! 次ぃ!」
やっと五つ目。やっと折り返し地点。
息を吐く。




