猛者
十三時になった。
立ち上げたパソコンで、子供のデータを見ていく。
昆虫が好きな少年。
おしゃれが好きな少女。
格闘ゲームが好きな少年。
KーPOPアイドルが好きな少女。
嗜好だけが記された、ぱっとしないプロフィールばかりが続く。
一時間。二時間。
退屈な画面が続くだけの退屈な時間が流れていく。
プロフィールを次々と見ていき、思わずその流れのまま矢印をクリックした時、前のページに記された一行が脳内に残った気がした。
ページを戻すと、確かにこの九歳の少年は空手の国際大会で優勝したらしかった。
「おっ、来たねぇ」
釣井が隣で画面を覗く。
「時々ね、いるのよ、こういう猛者がっ!」
釣井がそう言うと、「えっ、何何ぃーっ!」と、渡仲が興奮した様子で立ち上がり、近付いて来た。
「ええっ! すげぇ! 世界一じゃんっ! お前、ついてんなっ!」
まるで僕の偉業かの様に強く肩を数回叩かれる。
「この子には、星三つあげちゃってっ!」
そう言った釣井も、画面をまじまじと眺めると、僕の肩に手を添えた。
それからは、星を付けられるデータに遭遇しないまま、終業時間になった。
渡仲がまたそそくさと帰った後、自転車にまたがる参田に別れを告げ、釣井と二人で歩く。
「ね、今日こそ吞みに行こっ! アタシが奢るからさっ! 昨日のお礼とお詫びも兼ねてっ!」
そう言われ、吞みに行く事になった。
「あら、スーちゃん、久し振りー!」
釣井の案内で〝吞み処ゲンちゃん〟という名前らしい店に入ると、七十代と思しき男が厨房から威勢のいい声を出した。
壁のあちこちに飾られた野球のユニフォーム。
客を見下ろす様に野球中継を映すテレビ。
それに熱狂するサラリーマン達。
随分と男臭い店が好みらしい。
「もしかして、寿々寧ちゃん、彼氏かい?」
〝ゲンちゃん〟と思しきその男が、火と煙に覆われた網戸の上の焼き鳥をひっくり返しながら訊くと、釣井は「んーん、同僚」と答える。
「えっ、嘘っ! やっと新入社員が来たの?」
「そうっ! 遂に後輩が出来たのっ!」
「へぇー! そっか、そっかぁ! ずっと三人だけだったもんねぇ」
この男はうちの会社の事を知っているらしい。
「って事は、彼もあれ、出来るのかい?」
「うん、出来るよ。今ね、修行中なの」
「そっかぁ、選ばれし細胞を持ってんだねぇっ! あの、何だっけ、名前。何細胞だっけ」
「〝テレポー細胞〟でしょ」
「ああ、そうだった! 〝テレポー細胞〟ね」
「自分が付けたんじゃん」
「まあ、何はともあれ、良かったっ! 素晴らしいっ!」
男が求めてきた握手に、思わず応じる」
「あの機械ね、この人が作ったんだよ」
釣井の言葉に驚いた。
男は絵に描いた様なドヤ顔で頷く。




