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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
35/85

集中

 「うっし、始めっ!」

師匠モードに切り替わった渡仲は、ジグザグに置かれたフラフープの前で腕を組むと言った。

先頭のフラフープを凝視する。


 「昨日の感じを思い出してっ!」

息を吐く。


 気付くと、フラフープの中にいた。

未だに状況を把握しきれていないが、体はこのテレポーテーションとやらを覚えているらしい。


 「おおっ! いいねぇ! 覚えてるねぇ! じゃあ、そんな感じでポンポンいってみよっか。はい次、こっち」

師匠の指示で矢継ぎ早にフラフープを三往復すると、どっと疲労を覚えた。

頭と体が重い。息を吐き、背後のフラフープを凝視する。


 一分。二分。

テレポーテーションが出来なくなったらしい。


 「よし、じゃあちょっと休憩しよう」

手を叩くとそう言った渡仲はあぐらをかき、スマホを取り出した。


 「お前さ、この娘知ってる?」

渡仲が僕に見せた画面には、気取った女の写真が並んだインスタグラムのページが表示されている。


 「知らないです」

 「俺、DMでこの娘と仲良くなってさ、今日初めて会うわけよ」

 「はぁ……」

それから渡仲は、別の女のインスタグラムやTikTokで見付けたお気に入りの女を僕に紹介していく。

この場合の正しいリアクションがあるのならそれを知りたい。


 「あっ、そうだ、音楽聴きながらやるか」

そう言った渡仲が、今流行っているバンドの曲を再生させたスマホを柵に置くと、修行の後半戦が始まった。


 フラフープを凝視し、何とかテレポーテーションが出来た。

疲労した体が回復したらしい。


 「はい、次、あっち」

次のフラフープを凝視する。

十秒。二十秒。三十秒。

ようやく、テレポーテーションが出来た。

かなり、集中力を伴う作業だ。息を吐く。


 それからテレポーテーションは、回数を重ねるに比例して掛かる時間が増していった。

一分。二分。三分。


 「はい、時間切れぇー。昼になったし、今日はこの辺でぇー。お疲れさぁーん」

渡仲の号令で修行が終わった。


 「どう? 修行は。順調な感じ?」

釣井はプラスチックのフォークに刺したサラダのレタスを咀嚼しながら僕に訊いた。


 「んー、ちょっと持久力に欠けるかなぁ。まぁ、最初はこんなもんだよな。俺が鍛えてやんねぇとな」

渡仲はそう言うと、コンビニのかつ丼を頬張った。


 「あんたに訊いてないし」

釣井が咎めると、参田は「あはっ」と笑いながら幕の内弁当の蓋を開ける。


 「ねぇねぇ、彼女いるの?」

釣井が僕に訊いた。


 「六人目の彼女募集中でーす」

渡仲が手を挙げる。


 「あんたじゃないし。てか、五人もいる奴が募集すんな」

参田は筑前煮のれんこんを咀嚼しながら「ほっほっほ」と笑う。


 「趣味ってあるの?」

 「女」

 「だから、あんたじゃないって。てか、趣味を性別で言うな。はしたないわ。てか、あんた、かつ丼なの珍しいね。いつもはカップ麵なのに」

 「うなぎの後にカップ麺だと落差あり過ぎて切ないだろ? だから徐々にランクを下げてくってわけ」

 「あんたの中でうなぎのワンランク下はかつ丼なんだ」

 「当たり前だろ」

 「お寿司とかじゃないの?」

 「うわぁー! ミスったぁー! そうか、寿司があったっ! 完全に忘れてたわっ! うわぁ、食いたかったなぁ、寿司っ!」

 「何その、始めちゃったらやり直し出来ないルール」


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