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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
34/85

事故

 「うちの会社どう? 慣れた?」

 「はい」

 「仕事、楽しめてる?」

 「はい」

 「それは良かったぁ。変わった職場だけどアットホームな感じでしょ?」

 「そうですね」

 「分からない事があったら、何でも訊いてね」

 「はい、ありがとうございます」

釣井の案内で角を曲がると、衝突事故を起こしたらしい二台の車と、そのでパトカーが停まり、警察が事情聴取を行っていた。


 「あっ……、やっぱ……、あっち、から……」

釣井は何故か踵を返した。酷くうろたえた様子だ。

そして、釣井はその場にひざまずいた。

顔は青白く、汗だくだ。


 「ちょ、大丈夫ですかっ!」

左胸を押さえる釣井は、苦しそうに息切れをし始めた。

過呼吸らしい。次第にそれは激しくなっていく。


 「ちょっと、ここで休んでて下さいっ! すぐ戻りますからっ!」

過呼吸を起こした場合は、袋を口に当て、自分が吐いた二酸化炭素を吸い続ければ回復すると、以前観たテレビ番組で紹介されていたのを思い出した僕は、釣井の体を自販機に凭れさせ、目の前に建つコンビニに急いだ。


 「小さい袋下さいっ! お釣りはいりませんっ!」

千円札をレジ台に放り投げながら言った僕は、女の店員がバーコードを読み取った五〇〇ミリリットルの水とビニール袋を、奪う様に素早く手に取り、店を出た。

そして、自販機に凭れたまま苦しそうな様子の釣井の元へ急ぎ、彼女の口にビニール袋を当てた。


 「深呼吸して下さいっ!」

ビニール袋の底を握りながら、〝吸って、吐いて〟という掛け声を繰り返す。


 すると、釣井の過呼吸は次第に治まっていった。

あの時、あの番組をたまたま観ていて本当に良かった。判断は間違っていなかった。

安堵しながら蓋を開けたペットボトルを釣井に渡す。傾けられたそれから水が、汗だくの首を伝う。


 「ありがとう……、汰駆郎君……、助かったよ……」

釣井は手で口を拭いながら言った。


 「あのさ、この事、二人には内緒にくれる? 特に先生は心配しちゃうからさ」

 「あっ、はい」

水を再び口に含んだ釣井は深く息を吐き、ゆっくりと立ち上がった。


 「ホント、ありがとね、汰駆郎君」

 「いえ」

 「ごめんね、騒がせて」

 「いえ、とんでもないです」

それから駅前に着くと釣井は、「じゃあ、また明日ね」と、無理矢理作った様な笑顔で手を振り、マンションに向かって行った。

思わず、安堵の息を吐く。良かった。

突然の事に頭が真っ白になったが、何とかなって本当に良かった。

初めての経験にかなり慌てたが、何とかなって本当に良かった。


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