鰻重
「うっひょー! 久し振りのうなぎっ!」
手を合わせた参田の号令で鰻重の蓋を開けた釣井は感激している。
「来間さん、一回目の修行、お疲れ様でした」
黒烏龍茶のペットボトルを、こくっと口に傾けて言った参田に、〝お疲れ様です〟と返す。
「どうですか、師匠。一番弟子は」
釣井は山椒が入った袋を開けながら渡仲に訊いた。
「なかなか伸びしろあんじゃない? まぁ、いくら伸びしろあっても俺の指導がないと意味ないけど、ちゃんと俺の指導について来てたよ。俺の指導のお陰でめきめきと上達してるよ。早くも頭角を現したって感じ? まぁ、俺の指導のお陰だな」
大して指導してないだろ。
釣井は「はいはい」とあしらいながら、鰻の上にかけた山椒を割り箸で引き伸ばす。
「あはっ、それは良かった」
参田は割り箸を割る。
少し体が重い。テレポーテーションは疲労を伴う作業らしい。
「うんめぇっ!」
渡仲は鰻重を掻き込む。
「さぁさぁ、来間さんもどうぞ、召し上がって下さい。鰻は滋養強壮にいいですから」
参田に促され、蓋を開ける。
「うーんっ! 美味しぇー!」
釣井は目を丸くさせながら鰻重を頬張る。
「あっ、そうだ、さっき汰駆郎さ、コーンの真上にテレポーテーションしたわけっ! そしたらさ、そのまんま倒れて前のコーンに頭ぶつけそうになったわけっ! がっはっはっ!」
人が危うく怪我をしそうになった事を笑い話のトーンで話しやがって。
大体、そんなに笑える話じゃないだろ。
「えっ、大丈夫なの、汰駆郎? 怪我はない?」
それが普通のリアクションだよなと思いながら、「大丈夫です」と返す。
「良かったぁ」
参田と釣井は呟く。
「コーンの間隔、空けてやんないと」
そう言った釣井に渡仲は「うん、それからはちゃんとコーンの位置変えた。一回、柵の上にもテレポーテーションしちゃったから柵からも離したし」と返す。
自分の意見みたいに言いやがって。
「くれぐれも、安全第一でお願いしますね」
参田の言葉に渡仲は「ほーい」と返すと、引き続きうなぎを頬張る。
「あっ、そうだ、フラフープあったじゃん」
渡仲がそう言うと、「ああっ!」と、参田と釣井は目を丸くさせる。
「あったあったぁ! あんたがコーンの上に落ちてばっかりだからフラフープにしたんだったぁ。懐かしいっ!」
自分も同じミスしてたのかよ。そう思った時、「てか、あんた、汰駆郎君の事笑えないじゃん」と、釣井が代弁してくれると、渡仲は笑った。
「どこだっけ」
「あそこの物置じゃないか」
「ああ、ちょっと見てくる」
事務室を出て数分後、十個程のフラフープを体に通した状態で戻ってきた釣井は、「あったよっ!」と、笑みを浮かべて言うと、それ等を回すが、一瞬で全て床に落ちた。
渡仲はその様を指して大笑いした。




