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ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
26/85

驚愕

「ちょっと唯武樹ぃ! ルール違反っ! ちゃんと交通機関使いなさいっ!」

 「あっ、ごめん、ごめん」

 「次またやったら罰金一万円だからねっ!」

 「分かったよ……」

 「あんた、まさか人に見られてないでしょうね?」

 「見られてねぇよ。ちゃんと確認したし、公園の便所に行ったし」

 「大体あんた、また女遊びしてたでしょっ! いい加減にしてよ、もうっ!」

 「まぁまぁ、スーちゃん」

 「先生は黙っててよ」

釣井にたしなめられた参田は苦笑する。


 「結局来たんだからいいじゃねぇか。ね、先生」

 「そういう問題じゃないのっ!」

 「欠勤よりマシでしょ。結局来ただけ大分成長したでしょ。そこは称えてよ」

 「女遊びで遅れた人を誰が称えんの? 社会人は入社時間に来るのが常識でしょっ! てか、別にあんたが早めに切り上げたわけじゃないんでしょ。どうせ、振られたから来たんでしょ。成長でも何でもないでしょっ!」

渡仲は、ぎくっという音が聞こえそうな表情を浮かべる。


 「次また女遊びで遅刻したり欠勤したら給料半分だからねっ! 永久にぃ!」

 「ええっ! マジかよ、おい……」

 「当たり前でしょっ! てか、ちゃんとスーツ着て来なさいっ! 会社なんだからっ! 何回言わせんのっ!」

釣井はレザージャケットとダメージジーンズを纏った渡仲の体を何往復も見ながら行った。

 「じゃあ、業務に入って」

 「ほーい」

渡仲は気怠そうに席に着いた。


 「てか、腹減ったな。皆は飯食った?」

渡仲はパソコンを立ち上げるやいなや言った。


 「あっ、私とスーちゃんはさっきマックを食べましたけど、来間さんはまだですよね。カプセルに入ってたんで」

 「おっ! 汰駆郎、カプセル入ったのか? 出来るのか、テレポーテーション」

 「おっと、言い忘れてました。来間さんに入って頂いたカプセルは、その、テレ……、何でしたっけ、唯武樹君が言った……」

 「テレポーテーション」

 「そう、それです。それが可能になる機械なんです」

 「テレポ……」

言葉を失った。


 「ちょっと先生、もしかして、説明しないでカプセル入れたの?」

釣井は再び眉間に皺を寄せる。


 「急にあんな訳分かんない機械に入れられた怖いでしょっ! ただでさえ訳分かんない会社なんだからぁっ!」

 「それは大変失礼しましたっ! 後のお楽しみって感じの方がいいかと思って……」

 「いや、全然楽しみじゃないからっ! 恐怖しかないからっ!」

釣井に戒められた参田は再び僕に頭を下げた。


 「ホント、すみません、うちの理事長がぁ」

釣井も僕に詫びる。

何が何だか、全く訳が分からない。


 「では、説明の方をさせて頂きますね」

頭を上げた参田は口を開いた。


 「あの機械から出る特殊な煙を体内に取り入れる事で、あの、あれが出来るんです。何でしたっけ」

「テレポーテーション」と、釣井は呆れた口調で言う。


 「そう、それ。それが出来るんです」

体内に取り入れるのならマスク型にした方が効率的なのではないだろうか。

いや、そんな事より、テレポーテーション……?


 「こら、早速サボるな」

 「ちげぇよ、トイレだよ、トイレ」

渡仲は釣井に反論すると、退室した。


 「要するに、瞬間移動って事です」

参田は続ける。


 「うちではテ、テレ……、何だっけ、スーちゃん」

 「テレポーテーション」

 「そう、それ。そっちの方が格好いいので、うちではそう呼んでます」

呼べてねぇじゃねぇか。格好いいと思ってる割に一回も呼べてねぇじゃねぇか。

いや、そんな事より、テレポーテーション……?


 「あの機械に入っても、テレ、テ、えーと……」

 「テレポーテーション」

 「うん、それが出来る人はとても稀なんです。あの機械はゼロを一にする事は出来ないので、素質がないと、あの、あれ……」

 「テレポーテーション」

 「が、出来ないんです。素質がある人は、ほんの一握りなので、来間さんはとても貴重な存在です。多くの子供達にプレゼントする我々の必須能力ですしね。ただ、体が慣れるまで苦労すると思うので、完全に習得するまで、数ヶ月の訓練が必要になると思います」

話が入ってこない。テレポーテーション……?


 「あと、勤務以外での瞬間移動は禁止となっております」

とうとう〝テレポーテーション〟と言うのは諦めたらしい。

いや、それより、テレポーテーション……? 瞬間移動……?

その後、インターホンが鳴り、再び退室した渡仲は両手にどんぶりを持って戻ってきた。


 「はい、これ、汰駆郎の分」

渡仲は湯気の立ったどんぶりの片方を僕に渡した。


 「ここのそば、マジで旨いぞっ!」

再び勧める渡仲から割り箸を受け取る。

何故、勝手にメニューを決めたのだろう。僕がそばアレルギーを持っている可能性は考えられなかったのだろうか。


 「勝手に注文したのー? そばアレルギーあったらどうすんのさっ!」

釣井が代弁してくれた。


 「あっ、そっか。そば、いける?」

渡仲に訊かれ、「あっ、はい」と答える。


 「ああ、良かった。じゃあ、席、スズの隣空いてるね。ほら、ここ」

渡仲は釣井の隣のデスクにそばを置く。


 「ホント旨いぞ、このそば。あっ、俺の奢りね。入社祝い」

 「いえいえ、そんな。いくらですか」

 「えっ、あっ、そう? 六九〇円」

何度もラリーを繰り返すと思っていたが、相手が一撃で折れ、すぐに決着がついた。勝手に注文されたのに自腹なのか。

いや、それより、テレポーテーション……? 瞬間移動……?


 「いっただきまーす」

 「いただきます」

麺を啜る。


 「どう? 旨いだろ?」

普通だ。絶妙な普通さだ。完全に中の中だ。

いや、それより、テレポーテーション……? 瞬間移動……?

本当に自分は、テレポーテーション、すなわち、瞬間移動をしたのか……?


 そばを食べ終えて間もなく、「じゃあ、業務の説明をしますね」と、釣井は僕の目の前のパソコンの電源を押した。だが、全く反応がない。

何度も試みるが、結果は同じらしい。


 「あれ、やっぱりしばらく使ってないから駄目かな」

釣井はそれから、数台のパソコンを出すが、全滅だった。


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