眠気
「こちらのカプセルにお入り下さい」
参田はカプセルの中の一つの蓋を開けた。
「えっと……、これは……、どういう……」
「それは、入ってからのお楽しみという事で」
「えっ……」
いや、お楽しみにされても……。全然楽しみじゃない。楽しみより恐怖が勝っている。
「三時間程経過すると、自動で蓋が開きます」
長いな……。三時間も入るのか……。
「あの、これって、酸素カプセル、なんですよね?」
「酸素カプセル……? 何ですか、それ」
酸素カプセルじゃないのか。だとすればこれは一体何なんだ……。恐怖がより強まった。
「きっと、驚く事が起こる、かもしれません。起こらないかもしれないですけど。あっ、人体に悪影響を及ぼす事は決してないので、ご安心を」
全くご安心出来ない。
「さぁ、お入り下さい。さあさあ」
「えっ、あっ、ちょっ」
半ば強引な腕に因ってカプセルの上に乗せられ、そのまま上体を倒された。
「あの、酸素カプセルなんですよね、これ」
「何なんですか、それ。私、分からないです。でも、それじゃないです」
一体何なんだ、これは。これから何が起こるんだ。頼むから酸素カプセルであってくれ。
「では、閉めますね」
「えっ、ちょっ……」
閉じ込められた。
怖い。これから何が起こるんだ。
三時間、この中に閉じ込められるのか。
怖い。これから何が起こるんだ。
その時、足元から煙が噴射され始めた。
真っ白なそれがカプセルの中に充満していき、窓越しに見下ろしている男の不気味な微笑みはすぐに、一切見えなくなった。
何だか、眠たくなってきた。
不自然な程、猛烈な眠気だ。
完全にこの煙のせいだ。こんな得体の知れない機械に閉じ込められ、煙に覆われた挙げ句になるのは完全ヤバいだろ……。
怖い。眠気に比例する様に恐怖が増していく。
蓋を開けようとするが、全くそれが出来ない。
一体自分は、何をされるのだろう。
一体自分は、どうなってしまうのだろう。
一体、奴等の目的は何なのだろう。
改造人間にでもされるのだろうか。
臓器売買でもされるのだろうか。
奴等は、犯罪組織なのだろうか。
あんなにも明らかに怪しい組織を、何故信用してしまったのだろう。
眠ってたまるか。必死で眠気に抗う。
蓋がゆっくりと開いた。
引き裂いた脱脂綿の様に薄くなっていた煙が、カプセルの外へと逃げていく。
あの男は三時間と言っていたが、一分もなかった気がする。
思わず拍子抜けした。
何故、そこを盛ったのか疑問だ。
いや、熟睡した様な感覚がある。
まさか……。




