案内
「先程は大変、失礼致しましたっ!」
参田と部屋を出ると、女は再び僕に向かって深々と頭を下げた。
「本当に申し訳ございませんでしたっ!」
「いえ……」
「てっきりもう面接希望の方は来ないのかとっ! 本当にすみませんでしたっ!」
「いえ……」
「てか、先生も言ってよねっ!」
「いやぁ、ごめん、ごめん。ちゃんと言うべきだったね。すっかり忘れてたよ。それはそうとスーちゃん、この方、今日から新しくここで働く事になったよ」
「おおっ! マジでっ!」
「えっ、ちょっ」
女は勢い良く僕に抱きついてきた。
「ほっほっほ」と、参田は笑う。
「やったぁ! よろしくねっ!」
今度は握手を強要された。
「よ、よろしく、お願いします……」
「いやぁ、嬉しいな、あいつ以外だと初めての後輩っ!」
〝あいつ〟とは渡仲の事か。何故、彼を除いたのだろうか。
それから両手に閉じ込めた僕の手を振り回した女の、「年いくつ?」という問いに、「三十です」と答える。
「ふーん、年は三つお兄さんなんだ。名前、何ていうの?」
「来間汰駆郎と申します」
そう言うと、漢字でどの様に書くのか訊かれて説明するが、理解してもらえず、参田が僕の履歴書を見せる。
「あっ、何か、すごく久し振りに見たぁ、履歴書っ!」
「でしょ?」
それから女は、首に下げた名札を持ち、僕に見せると、二人の男と同様のデザインと組織名の下に書かれた〝釣井 寿々寧 ―Suzune Tsurii―〟の文字を差した指を往復させながら「私、釣井寿々寧。よろしくね」と名乗った。
「よろしくお願いします」
「あっ、でもさぁ、先生? まだ分かんないよね、出来るかどうか」
「出来る人は本当に珍しいみたいだからねぇ」
「楽しみだねぇ」
「そうだね。出来るといいね」
〝この新人の能力が如何なものか、きっちりと見定めてやる〟、という事か。本人がいる前でそんな事を言うのか。
「じゃあ、ちょっとそれも含めてここの紹介をしますね。じゃあ、まず、ここが事務室」
四台のデスクが並んだ部屋をざっくりと僕に見せた参田はそれから、建物内を次々と案内していく。
「この会社、ずっと三人だけでやってたんです。なので、来間さんが来てくれて良かったですよ」
トイレや給湯室、物置を僕に案内した参田はそう言いながら廊下を歩き、エレベーターへ乗った。
二階に着くと、金属製の大きな棚が並んでいた。
「二階と三階は、我々が子供達にプレゼントさせて頂く品物を保管しておく場所です」
かなり広い空間に、何も置かれていない棚がいくつも並んでおり、錆びたそれ等の上部には都道府県や地域の名前が書かれたシールが貼られている。
「今は何もないですけど、十二月に入ると、子供達の欲しいものを調べて発注するんです」
それから参田は僕を四階に案内した。
エレベーターが開くと、チューブファイルで埋まった金属製の棚がいくつも並んでいた。
「こちらは、過去に我々がプレゼントさせて頂いた子供達のデータを保管しておく場所です。子供のお家の間取りや、プレゼントの情報も記されてます。では、続いて五階を見て頂きますね」
エレベーターが開くと、四階と同様の景色だった。
「ちょっと、こちらへ」
参田はエレベーターを降り、五階を案内する。
無数のチューブファイルに挟まれた通路を歩くと、奥に大きな鉄扉があった。
参田はそれについた指紋認証装置らしいものに指を当てる。
「続いて、こちらの部屋を紹介しますね」
参田が鉄扉を開けると、酸素カプセルの様な機械が並んでいた。




