表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホーリー☆ナイト! ー新人サンタクロースの奮闘記ー  作者: 走井 響記 (Hashii Hibiki)
修行編
22/85

面接

奥の小さな部屋に入り、念の為に持参した履歴書を渡すと、ホワイトボードの前に向かい合うパイプ椅子に、僕と男はそれぞれ座った。

あちこちに埃が被り、隅にはクモの巣が張られている。


 「じゃあ、面接を始めますね」

面接? あの男は僕をスカウトしたと言っていたが、不採用の可能性があるという事なのか。


 「いやぁ、久し振りに見たなぁ、履歴書」

男は履歴書を眺める。


 「えっと、まずお名前は。まぁ、知ってるけど」

 「来間汰駆郎です」

 「年齢は三十歳」

 「はい」

 「お若いですねぇ。あっ、前まではサラリーマンだったんですね」

大きな眼鏡をくいっと上げながら訊いた男に、「はい」と答える。


 「んーと、どうしよっかな。面接って何訊くんだっけな」

男は白髪の生えた後頭部をかく。


 「んーと、趣味とかありますか?」

 「趣味は、音楽鑑賞ですかね」

 「音楽が好きなんですね。私はクラシックを聴きながら、猫ちゃんを撫でたり、コーヒーを飲んだり、本を読んだりしている時間が大好きですよ」

 「はぁ……」

 「んーと、何だっけな、あと……。あっ、子供はお好きですか」

 「あっ、はい」

 「私も大好きです」

お見合いかよ。さっきから会話が完全に面接じゃなくてお見合いじゃないか。

それから、好物、血液型、睡眠時間など、絶対に関係ないであろう質問に答える羽目になった。


 「んー、あとは何か訊く事あったかな」

男は首を傾げて考える。


 「まあ、いっか。面接はこの辺で。お疲れ様でした」

 「あっ、はい」

 「じゃあ早速、今日からでもいいですか?」

 「えっ……」

 「あっ、明日からの方がいいですか? それとも、来週からにします?」

 「えっ、えっと……、採用という事ですか?」

 「ええ、勿論です」

突然の展開に拍子抜けした。


 「ずっと三人でやってたので、非常に助かります」

 「あの」

 「すぐに支社が全国に出来て、大手企業になると思ってたんですけどねぇ、世の中そんな甘くないですね」

 「あの」

 「我々がプレゼント出来る子供達の人数なんて氷山の一角ですから、心苦しいのです」

 「あの」

 「沢山の方に入社してほしいんですけどねぇ、社員が増えればその分、沢山の子供達にプレゼント出来ますから」

 「あの」

 「でも、深刻な人手不足が続いてたんでね、あなたが来てくれて本当に良かったですよ」

 「あの、すみません」

 「あっ、はい」

 「あの、ここって……」

 「はい、サンタクロース協会ですよ。もしかして聞いてませんでした?」

 「いえ、えっと、サンタクロースっていうのは、どういう……」

 「あっ、ご存じないです? サンタクロースというのはですね、クリスマスの夜、子供達にプレゼントする人の事です」

サンタクロース協会。一体何なんだ、この胡散臭い組織は。


 「えっと、サンタクロースは知ってるんですけど、どういう事なんですか。どこの子供にプレゼントするんですか」

 「どこって、日本中ですよ? 日本中、津々浦々。子供はどこの地域にもいますからね」

 「色んな子供にプレゼントを渡すのが、この会社の仕事なんですか」

 「ええ、そうです。まぁ、渡すっていうか、夜に眠っている子供の枕元に置いとくんです」

まさにイメージ通りのサンタクロースだ。


 「お若いお二人が一〇〇〇軒ぐらいやってくれていて、私はもうこの年なので、五、六〇〇軒ぐらいで留める様、先程の女性に言われているんです」

何故、この男も話を盛るのだろう。何故、同じ盛り方なのだろう。そんな事を盛って何になるのだろう。


 「あっ、すみません、申し遅れましたね」

男は首に下げた名札を持ち、僕に見せた。

渡仲のものと同様のデザインのそれには、〝日本サンタクロース協会 代表理事〟という文字の下に、〝参田 富行 ―Fuyuki Sanda―〟と書かれている。


 「私、参田富行と申します。還暦を迎えて間もなく、この会社を立ち上げたんです。子供達に、喜んで貰える為に。カーネル・サンダースも、ケンタッキーを立ち上げたのはそれぐらいの年だそうですね。私、似てるって度々言われるんです」

 「はぁ……」

確かに白い髪と大きめの眼鏡が似ているが、そんな事よりも確認すべき事項がある。


 「参田とサンダースで、名前も似てますしね。あはっ」

 「あの」

 「はい、何でしょう?」

 「お給料って……」

 「あっ、失礼しました。これは大事な事を忘れていましたね。給料はですね、月二十万円です。そして、クリスマスにやって頂くプレゼント運びは一軒につき一万円です。一〇〇〇軒程回って頂く事になると思います。歩合制なので、一〇〇〇万円、手当として支給します」

まだ言うのか。


 「嘘ですよね、一〇〇〇軒って」 

 「いえ、本当ですよ」

 「一日で、じゃないですよね……」

 「一日というか、一晩ですよ。子供達が寝ている間にプレゼント運びを実行するので」

 「一〇〇〇軒じゃないですよね」

 「いえ、一〇〇〇軒ですよ」

頑なだな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ