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第64話 眠れる本能(1)

「――抹殺」


 メルキゼデクの針の先端から、アピスゼノクは青い銛のような形の光弾を連射してレオゼノクとレオパルドスゼノクを攻撃する。二人が地面を転がって左右に避けると、狙いを外れた攻撃魔法の光は背後にあった煉瓦の塀に当たって爆砕した。


「やはり無理が来てるようだな。威力は凄いが、命中精度が落ちてるぞ」


「破壊――殲滅――ッ」


 潜在能力を強制的に引き出して限界を超えさせられている反動か、アピスゼノクは時折痺れたように体を震わせ、普段の冷静さも失って乱射に近い撃ち方になっている。隙ありと見たレオパルドスゼノクは光弾の雨を掻い潜って一気に突撃し、助走をつけて右足の蹴りをアピスゼノクに浴びせた。


「くっ……!」


「グァァァッ!!」


 レオパルドスゼノクの上段蹴りを片腕で防いだアピスゼノクは激痛に悶えるように咆えながら、凄まじい怪力で相手を弾き飛ばす。宙を舞ったレオパルドスゼノクは道端に生えていたオリーブの木に激突し、その幹を叩き折って地面に落下した。


「おい」


 倒れ込んだレオパルドスゼノクを追撃しようと迫るアピスゼノクに、右腕を軽く振る仕草をしながらレオゼノクが横から声をかける。その勢いのまま右手を唸らせて殴りかかるレオゼノクだったが、アピスゼノクは彼の攻撃も軽々と受け止め、至近距離からメルキゼデクの光弾を浴びせて吹っ飛ばした。


「グッ……アァァッ……!」


 痛みと必死に戦いながら幽鬼の如く向かってくるアピスゼノクに、レオゼノクはほんの一瞬だけ攻撃を躊躇う。だがそうしている間に接近してきたアピスゼノクは彼の首を片手で掴み、凄まじい怪力で締め上げた。すぐにレオパルドスゼノクが助けに入り、アピスゼノクを横から蹴り飛ばしてレオゼノクを守る。


「魔力自体は圧倒的なんだけど……ちょっと応援が必要かしらね」


 無理な潜在能力の解放が祟って、アピスゼノクの肉体は既に限界を迎えようとしている。それを見たセイレーンゼノクは面倒くさそうに溜息をつくと、片手をかざして指先から自分の足元に向けて光線を放った。細いピンク色の光線は素早く地面を走り抜け、妖しく発光する大きな円形の魔方陣を描き出す。


「本当の賢さって何なのか、考えてみたことはある? 知能は人間より低くても、神様には素直に従うっていうお利口な判断ができる子たちもいるのよ」


 夜の闇に明るく浮かび上がった魔方陣は光を増し、空間転移魔法を発動させて十数体の怪生物をその場に召喚した。槍を持つ二足歩行の醜い小鬼のような兵士たちが不気味な奇声を上げ、レオゼノクとレオパルドスゼノクを取り囲む。


「ゴブリンゼノク……とは違うようだな。どう見ても人間やあの天使たちの挙動じゃない」


「ええ。むしろ神話や怪談に出て来るゴブリンそのものって感じだわ」


 軽快に踊るように足踏みしながら槍を向けてくる小鬼の群れを観察してレオゼノクとレオパルドスゼノクが言うと、セイレーンゼノクは愉快げにうなずいて二人の言葉を肯定する。


「そうよ。向こうの空に見えるグリフォン座の尻尾の先にある、霧に覆われた小さな砂の惑星ジーマがこの子たちの故郷。かつてはそこも魔王ロギエルの支配下で、ジーマ星人は忠実な兵士として神に仕えていた種族なの」


 西の夜空に浮かぶ魔獣の形の星座を指差して、セイレーンゼノクは配下のゴブリン兵たちの出自を語る。人間とも竜人とも異なる起源を持つゴブリンは動きが見るからに独特で、人語を話すこともなく甲高い鳴き声を上げて仲間同士の意思伝達をしながら集団の統制を取っていた。


()ってしまいなさい。可愛いゴブリンちゃんたち」


 セイレーンゼノクが命じると、ジーマ星から来たゴブリン兵たちは槍を振るって次々と二人に突きかかる。アピスゼノクが苦しみながら荒い呼吸を繰り返す横で、襲ってくる大量の敵を相手にレオゼノクとレオパルドスゼノクは必死の奮戦を続けた。

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