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転生したのはモブだったはずの世界にて  作者: 黒乃きぃ


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27/30

27.本当の役割

長らく完結しないままでしたが…本日から最終話まで4話連続更新致します!

「どうぞ、お座りになって。」

「失礼します。」

「ふふ、お茶はいかが? ああそう、リアの好きな焼き菓子があるのよ。」

「…いえ、お構いなく。ジェーン様、お話とは?」

「…せっかちね、エリス様。」

 ジェーンたち姉妹の部屋に通され、おそらくは二人で使っているのだろうティーテーブルに案内される。上機嫌でもてなそうとするジェーンを押し留めて、エリスは本題へ迫った。単に、雑談だけならば、談話室で問題なかったのだ。グローリアも同席していて良かった。けれど、ジェーンは二人きりにこだわった。その理由がエリスには分からなかった。否、可能性にはついさっき思い至ったが、けれどそれが確定的ではない。

「…何から話そうかしら。そうね、エリス様は前世って信じる?」

「え…?」

「ふふ、これじゃあ曖昧ね。『乙女ゲーム』ってご存知?」

「…。」

 聞き覚えのある単語ではあったが、質問の意図が全く読めない。エリスは考え込むように、口を噤む。そんなエリスの様子に、簡単に答えてはもらえないわよね、とジェーンはニコニコと笑っている。困ったような台詞を吐くくせに、満面の笑み。そのチグハグさに、エリスは思わず身構える。

「そんなに身構えないで。…質問はやめるわ。わたしね、前世があるの。それで、この世界を知っていた。頭がおかしい奴だと思う?」

「…いいえ。」

「あら、ありがとう。この世界はリアの…聖女グローリアのための世界。あの子が幸せであることがこの世界の前提条件。でも他にも幸せになるべき人はいる。わたしはね、わたしの持っている知識で、リアと結ばれないと幸せになれないかもしれない人たちを、リアが選ばなくても幸せになれるようにしたかったの。」

「…? えっと?」

 この世界がグローリアのための世界。エリスも知る『げーむ』を前提とするならば、確かにそう言い換える事もできるかもしれない。ジェーンがエリスと同様にイレギュラー要素であることも理解できた。だが、続いたジェーンの言葉が、エリスの理解の範疇だを越えていた。

「…まどろっこしいからハイかイイエで答えて頂戴。エリス様、貴方前世の記憶、ある?」

「…はっきりと、ではないですが。」

「そう、ここが乙ゲー…『聖女と清らなる恋』の世界だってことは?」

「一応、は…あの、わたくしげーむ? は、あまり詳しくなかったんです。」

「あーなるほど? え、プレイした? 攻略は?」

「えっと、五人? でしたよね…全部のルートではないですが…。」

「あ、隠しキャラ知らない感じ? なるほどなるほど、ガチ勢じゃなかったかあ。」

「がちぜい…?」

 おっとりとした話し方から一変、エリスが前世を認めた瞬間に、砕けたジェーンの言葉遣いにエリスは目を丸くする。そんなエリスの様子に、ジェーンもぱちりと瞬きをした。

「あれ? 前世あるのよね?」

「ジェーン様は…記憶として、ある、のですか?」

「あー…わたしはトラ転…って言っても分からないわね? 前世死んで、気付いたらジェーンとして生まれてたの。エリス様は違うの?」

「わたくし、は…、」

 トラ転という言葉はエリスの知らない言葉だったが、おそらくは死因に何らか関係しているのだろうとは分かった。死んだ記憶を持ったまま生まれ変わるとはどういう感覚なのだろう、と思うが、今はそこではない。追体験とでもいうべき記憶についてジェーンに語る。

「んー…あんまりわたしが読んでたラノベにはないタイプだなあ。まじで記憶だけで人格とかは今世の自分ってことでしょう?」

「はい。らのべ…?」

「あー…こういう転生とかがメジャーなジャンルの小説って思って。わたしは一応、前世の日本人の自分ままだもんなあ。お母様が母乳派じゃなくて本当に良かったと思ったもの。羞恥で死んじゃう。」

「はあ…。」

 とりあえずは同じく前世の記憶を持ち、しかもおそらくは同時期を生きていたらしいというところはエリスにも理解できた。だがそれと、何故ジェーンが自分と個別で話したがったかがまだ分からない。前世の話をおいそれとするわけにはいかないため、グローリア抜きで話す必要性は、分かる。だがジェーンの言葉を借りれば、グローリアが幸せに生きられるのが前提。刷り込みのようにエリスもそのために動いていたため、ジェーンからすれば事態を楽に好転させる存在だったはずだ。それだけであれば、わざわざ気狂いと言われるリスクを背負ってまで、手の内を明かす必要性がない。

「それで、どうしてわたくしにその話を…?」

「ん? ただ、前世の話がしたかったからっていうのと…あとは貴方が、わたしがずっと探してた存在だからっていう二点かな。」

「…探していた?」

「そう。さっき言ったでしょ? リアと結ばれなければ幸福になれない人がいるって。それって、攻略キャラたちなのよね。彼らって、何らかしか問題…魔力絡みで色々あるじゃない、殿下なんてその筆頭。先祖返りの王族って結構婿入り先悩ましいでしょ。それがリアと結ばれれば色々クリアになる。」

「…確かに、そういうストーリーでしたね。」

「で、だけどじゃあ、結ばれなかった場合どうなるって話。…キャラ設定集とノベライズって買った?」

「いえ…そもそもげーむは友人に勧められて知っただけだったので。」

「はーなるほど。」

 ふむ、と頷き、ジェーンは唇を潤すように紅茶を口に含んだ。これはまじで知らないんだなあ、とエリスを見やるジェーンの眼差しがどことなく生ぬるいことに気づいてエリスは落ち着かない気持ちになる。

「攻略キャラのうち、殿下以外には実は本来のお相手がいるの。」

「え…!?」

「いるって言い方も変か…あるタイミングで結ばれていたら、その人がトゥルーエンドとなるって感じ? リアは殿下のお相手であり、同時に誰のハッピーエンドにも対応できる万能お助けキャラ的な立ち位置って考えてもらえば早いかも。」

「…?」

「分かりやすいところでいくと、ケイティ様。」

「!」

 よく見知った友人の名前に、エリスは目を見開く。確かに、カルロスとケイティは随分前から思い合っている。途中、何度か別れの危機はあったが、エリスをはじめ周りの面々のサポートで婚約目前というところまで無事に漕ぎ着けた。

「攻略キャラは謳い文句で言えば、孤独な第二王子、生徒会副会長、第一王子の側近、ミステリアスなクラスメイト、ひとつ上の学年の美女…っていうか女装男子。そのうち、クラスメイト…カルロス様のお相手はケイティ様。これは設定集に書かれていた通りで、幼少期からの付き合いの魔力オタク。合ってるでしょ?」

「…合って、います。他の方は?」

「副会長のお相手は会計の子。この間告白をけしかけたらうまいことまとまってた。で、王子様の側近くんのお相手は図書委員の伯爵令嬢だったから、そこもお見合いおばさんになったわ。」

「…ジェーン様、何がなんでもハッピーエンドにするぞの勢いがありますね…。」

「ありがとう。だってどうせなら、ね? で、学年違いの女装男子のお相手、これはわたし。」

「え!?」

 思わずエリスは椅子から腰を浮かせた。ここまでの話は、既にお互いに思い合う可能性がある二人を結びつけるきっかけをジェーンが作ったという話だったが、それとは訳が違う。ハッピーエンドにこだわるのは分かる。けれど婚約の先には結婚があり、自分たちの人生は続いていくのだ。物語の範疇でだけハッピーエンドでも、それは違うのではないか。慌てるエリスに、ジェーンは落ち着いてと首を緩く振った。

「わたしだって、別に好きじゃなきゃ動かないわ。そもそも前世の推しがユル様…あ、キャラ名はわかるわよね? だったの。自分がジェーンだってわかった時、リアがユル様を選ばないなら、絶対ユル様のトゥルーエンド狙うぞって思ったもの。」

「…なる、ほど。」

 自己犠牲ではなく、前世からの愛を叶えたという話らしい。とはいえ自分の愛よりもグローリアの思いを優先するあたり、ジェーンのこれまで見せていた妹への愛は本物らしいとも思えた。

「じゃあ、本題ね。あのゲームって、全キャラの全ストーリー、全スチルコンプすると、隠しキャラが登場するの知ってた?」

「え、知らないです。」

「そうよねえ…隠しキャラは、スタインシュイン先生よ。」

「えっ…!」

「ちなみに他キャラと違って、バッドエンドか通常ルートしかないけど。」

「何故…、」

「トゥルーエンドの相手じゃないと、彼はハッピーエンドになれないから。」


 ───ちなみにそのお相手、エリス様よ。


「え…?」

 キールが隠しキャラだった。その時点で混乱していたエリスは、自分の理解の範疇を越えたのを感じていた。ここまでの話は、驚きこそあれ、納得のいくものだったのだ。カルロスのルートでは、何度も結ばれなかった初恋の魔力オタクの少女の話が出ていたし、他のキャラも匂わせるような描写はあったように思う。

 五人の攻略キャラのルートは各三つ。ハッピーエンド、バッドエンド、通常エンドだ。通常エンドは結ばれるか結ばれないか…の手前あたり、この後どう転ぶかはその後の二人次第と言えるようなルートだ。ハッピーエンドはその名の通り。バッドエンドは国が荒れるか、聖女の魔力で相手の中の魔力を消し去る…などなど。ちなみに魔力とは即ちその人の核であるため、魔力を消し去られた混魔は最悪の場合死ぬ。

「医務室関連のスチルで、スタインシュイン先生の後ろに大体写っていた茶髪の女子生徒。スタインシュイン先生が養護教諭になる前から交流のあった混魔。…スタインシュイン先生のお相手って、ノベライズの中でも明確には書かれてなかったのよ。過去とかが重たくて多分文章量足りなかったんでしょうね。」

「…明確に書かれていないのなら、何故わたくしだと…?」

「スタインシュイン先生の魔力暴走を食い止めたから。」

「っどうしてそれを!」

「ノベライズにそれだけは書いてあったの。」

 エリス様、どうして彼だけハッピーエンドがなかったと思う? 静かに問われ、エリスは分からずに口を噤む。王城で口止めされている情報を知っている時点で、ジェーンの語る『のべらいず』とやらの内容は正確なのだろう。だが、それでも自分がまさかキールの運命の相手だとでも言わんばかりのジェーンの話に、エリスは到底ついていけなかった。

「簡単なことよ、聖女の血は吸血鬼には劇薬。だから彼を彼のまま救うには、エリス様しかいなかった。スタインシュイン先生が血を受け入れるような相手…貴方以外に、いる?」

 ジェーンの問いに、エリスは二の句が告げない。

 仮にグローリアがあの日までに好感度を上げていたとして。血を飲めないのならば、聖女の力で魔力を消し去るしかないだろう。その場合、キールはキールであって、キールのままではなくなる。彼が望んだ生き方ができる彼ではなくなるだろう。

 混魔や先祖返りにとって、己の魔力はアイデンティティのようなものだ。それを失って、耐えられるか。しかも魔力を消し去った場合、生き残れる可能性はかなり低い。混魔ならどうにかなる。だが先祖返りの肉体の核は魔力だ。死ぬリスクが高すぎる。

 ああ、とエリスは力ない声を絞り出した。これまで単なる『もぶきゃら』だと思って、その中でもお助けキャラのような立ち位置だと思って立ち回ってきたつもりだ。それがまさか、キールにとっては、替えのきかない相手だったとは。

 安堵か、喜びか、はたまた自分も結局は物語の中のコマでしかなかったという虚無感か。感じたことのない感情の渦に、エリスは自分の体を抱きしめるようにして椅子の上でうずくまるしかできなかった。

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