37話 奏のお願い
「ここが私のお家だよ」
「ここが……でも、思っていたより普通ですね」
わたし、もっと大きい豪邸みたいなところを想像していたんですけど、少し庭と家が大きいなぁ~って、思うくらいでした。
「あはは! 私の友達もそんな感じだったな~。別に親の会社が大きいからって、お家も大きい訳じゃないからね~。まぁ、パパが張り切って大きな豪邸を建てようとしたらママが、掃除も大変だし、だからと言って人を雇うのにもお金がかかるんだからって反対して、今のお家がある訳ですよ。それよりも、早くお家に入ろうよ」
「ま、待って奏さん! 押さないで」
奏さんに背中を押されながら、わたしは春町家へと入っていった。
◆◆◆
「ここが私の部屋で、隣が遥お姉ちゃんの部屋だよ。さぁ、入って入って」
奏さんの部屋は、ぬいぐるみなどが多く置かれている可愛らしい部屋でした。でも、その可愛らしい部屋の中でも、一際目立っている物がありました。
「大きな本棚ですね。奏さんは、本が好きなんですか?」
「うん、そうなんだ。だから、図書委員になったんだ~。でもね、瑠璃華ちゃん。本よりも私が大好きなことがあるんだよ……」
意味ありげに奏さんは、そう言いました。
「その大好きなことって?」
「それはね……」
「それは?」
「まぁ、それは後で話してあげよう。私、飲み物を持って来るから座って待っててね。あっ! そうだ。私がいないからって、部屋の中を漁っちゃダメだぞ」
「そんなことしないよ。奏さんは、わたしがそんなことをすると思ってるの?」
「ふっ、ふっ、ふっ。冗談だよ、冗談。瑠璃華ちゃんが、そんなことするなんて微塵も思ってないよ。そうじゃなきゃ、お家には入れないよ。それじゃあ、少し待っててね」
そう言って奏さんは、部屋から出て行きました。わたしは、ローテーブルの近くに座って奏さんが戻ってくるのを待ちます。
それにしても、奏さんの願いが何なのか、本当に教えてくれるのでしょうか?
また、冗談だったり、からかっているだけの可能性もあります。今度こそ、ちゃんと聞かないと……。
「瑠璃華ちゃん、おまたせ~」
奏さんが飲み物を持って戻って来ました。
「ごめんね~。冷蔵庫の中に麦茶しかなくてさ~。これで我慢してね」
「いえいえ、気にしないで下さい。奏さん」
わたしが、そう言うと奏さんは、少し不満げな表情をしました。
「瑠璃華ちゃん……その奏さんって呼び方じゃなくて、奏ちゃんって呼んで欲しいな~。奏さんじゃ、距離を感じるんだよね。私、瑠璃華ちゃんと仲良くなりたいの、友達として、そしてそれ以外として……ね」
何か最後に意味ありげに何か言っていたけど……奏ちゃんって呼べばいいんだよね。
「じゃあ……奏ちゃん。これで良いかな?」
「うんうん。いいよ、瑠璃華ちゃん。あぁ……やっぱり、瑠璃華ちゃんにそう呼ばれると最高だね。えへへ……」
奏ちゃんが、嬉しそうに笑っています。そんなに嬉しいことなのかな? ただ、奏ちゃんって呼んだだけなんだけど……。それよりも、本題に入りましょう。
「それで、奏ちゃん。奏ちゃんの願いって何なんですか? わたしと関係あることなの?」
「うん、そうだよ。瑠璃華ちゃんじゃないとダメ。ねぇ……瑠璃華ちゃん。本当に聞きたい? たぶんそれを聞いたら、瑠璃華ちゃん引くかもしれないよ。本当にいいの?」
わたしが、引くかもしれないことって、何だろう? わたしの願いも遥先輩の願いもあまり理解されないことだと思うし……。それに、遥先輩の願いと似ているみたいだし。そんな、変な願いじゃないのでは?
「大丈夫だと……思う。わたしの願いも変だと思うしさ……話してくれないかな?」
「そっか。じゃあ、言うね。私の願いはね……お姉ちゃんを甘やかしてあげたいってことだよ」
お姉ちゃんを甘やかしたい? つまり……奏ちゃんは、遥先輩を甘やかしたいってこと? わたし、関係ないんじゃない?
「え? お姉ちゃんを? お姉ちゃんって遥先輩のことだよね? わたし関係ないんじゃないかな? 遥先輩と奏ちゃんの問題と言うか、話じゃないかな?」
「えっとね……私が小さい時は、遥お姉ちゃんを甘やかそうとしたんだけどね……瑠璃華ちゃんなら、わかるでしょ。遥お姉ちゃんの願い」
あっ! そうでした。遥先輩は誰かにご奉仕したり、甘やかしたりするのが願いでした。ということは……つまり……。
「瑠璃華ちゃんも気づいたよね。私と遥お姉ちゃんは小さい時、お互いに甘やかそうとしてたんだよ。でもね……私達は、甘やかしたいのであって、甘やかされたい訳じゃないの……その結果、喧嘩になったりしてね。最終的にママにお互いを甘やかそうとするのを禁止されちゃったんだよ」
「遥先輩と喧嘩……ですか……想像出来ない……」
「まぁ、それで私と遥お姉ちゃんは、気づいたんだよ。姉妹で甘やかすのは無理だってね。その後は、普通の仲の良い姉妹になったんだよ」
なるほど、そう言うことだったんだね……ん? ということは、奏ちゃんが言っていた、わたしじゃないとダメって言うのは……。
「あの……奏ちゃん。もしかしてだけど……」
「うん、瑠璃華ちゃんにはね。私のお姉ちゃんになって欲しいの」
「え……? えぇぇぇ!!! イヤイヤ! わたしと奏ちゃんは、同級生じゃん! お姉ちゃんは、違うんじゃないかな!?」
奏ちゃんの衝撃的なお願いに驚いて、思わず大きな声を出してしまいました。でも、急に同級生から私のお姉ちゃんになってと頼まれたら、誰だって驚きますよね。
からかっているだけかと思いましたが……奏ちゃんの目が本気であることは理解できました。
遥先輩の願いを軽く飛び越える程の衝撃ですよ。
「大丈夫だよ、瑠璃華ちゃんなら立派な私のお姉ちゃんになれるって。ね、私のお姉ちゃんになってくれたら、遥お姉ちゃんに負けないくらい。瑠璃華ちゃんを甘やかしてあげるよ」
「は、遥先輩との約束があるから、奏ちゃんのお願いは叶えてあげられないよ……ごめんね」
「別に遥お姉ちゃんとは今まで通りで良いんですよ。寧ろもっと仲良くなって欲しいの。私は時々でいいから、妹として瑠璃華ちゃんを甘やかせられればいいんだよ。だから……ね」
そう言いながら、奏ちゃんがわたしに近づいて来る。
「な、何で近づいて来るの?」
「え? なんでって。実際に体験した方が良いかなって思ってさ。ちなみに私は、この時のために色々な属性の妹を演じられるようにしてきたから、瑠璃華ちゃんの好きな妹で甘やかしてあげるよ。どんな、妹が好みかな? クール系? 活発系? それとも……最近流行っているメスガキとか?」
「いや……その……わたし妹とかはあんまり……」
「そうだよね……でも、大丈夫! メイドさんが好きな瑠璃華ちゃんのために、私もメイド服用意してるから、何も問題ありません!」
さらにわたしに近づいて来る奏ちゃんに思わず。後ずさりする。
後ずさりするわたしを見て奏ちゃんは、近づくのを止めました。
「そんなに私に甘やかされるのが嫌ですか?」
うぅ……奏ちゃん。そんな悲しそうな目でわたしを見ないで下さい……。
「嫌とかじゃなくて……その……わたしが奏ちゃんのお姉ちゃんになるというのが……ね。友達として仲良くするってことで、どうかな?」
「それじゃダメです。瑠璃華ちゃんと友達になるのは嬉しいけど。私は妹と言う立場で瑠璃華ちゃんを甘やかしてあげたいんです。普段は友達として、時々でいいので私のお姉ちゃんになって私に甘やかされて下さい。お願いします」
「で、でも……」
「はぁ……やっぱり、瑠璃華ちゃんには私の甘やかしを体験してもらうことにしましょう」
奏ちゃんがどんどん近づいて来て、わたしの目の前まで来ました。ち、近い……。
「か、奏ちゃん。少し落ち着きましょう……ね」
「私は、落ち着いていますよ。瑠璃華ちゃんが頷いてくれたら、瑠璃華ちゃんにとっても都合の良い事があるんですよ」
「つ、都合の良い事って?」
「それはですね……ん? はぁ、帰って来ちゃったみたいですね。その話は遥お姉ちゃんが来た後でしましょう」
「か、帰って来たって……」
部屋の外から誰かが階段を掛け上がって来る音がします。その後、奏ちゃんの部屋の扉が開き……。
「る、瑠璃華さん。だ、大丈夫ですか? はぁ、はぁ」
遥先輩が息を切らしながら、入って来ました。
「思っていたよりも早く帰って来たね。おかえり遥お姉ちゃん」
「か、奏。瑠璃華さんに迷惑をかけてないですよね?」
「別に迷惑をかけているつもりは無いよ。ただ、瑠璃華ちゃんにお願いをしていただけ。ちょうど良いや、3人でお話ししようか? これからのことを……」




