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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(四年生)

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55 アインホルン公女の前世 そのろく

 オティーリエの話を聞くに、どうやら『彼女』は最初から、『彼』のことを嫌っていたわけではないようだ。

 かといって好意があったわけでもない。


「紹介されたその時は、特に何も。しいて言うなら、『あぁ、またか』という感じだったと思います。親から同世代の子と引き合わされたのは、『彼』が初めてではなかったので。そのあとも、知り合いの子供と引き合わされることは頻繁にありましたから」

「それは……、家に利がある相手だったってことかな? 男女関係なく引き合わされた?」

「はい」

 ってことは、相手が女子だった場合は、その相手の取り巻きになれって感じで、男子だった場合はそれプラス、婚約者候補だったのかもしれないなぁ。

 それでもって『彼』は婚約者候補の一人だったのかも。

 やっぱり『彼女』はセレブ層の人間だったんだろう。


「そのあとも、『彼』に対して特別な感情を持つことはなかったですね。なんか、気が付けば傍にいる程度で、全く興味がなかったです。『彼』は一見、誰の目から見ても、人当たりが良く、礼儀正しい子供だったんです。親の前で良い子のフリをして、『彼女』にだけ本性を見せるというようなことでもありませんでした。ですから、大人だけではなく、同世代の子も気を許して、すぐ仲良くなっていましたね。人の輪の中心になるタイプです」

「なのに『彼女』は『彼』に興味がなかったの? 優しくしてもらったんでしょう? 自分だけ特別扱いしてくれるって、勘違いしなかったのはなぜなんだろう?」

 親が優秀な兄の方にばかり意識を向けられていたなら、そこで優しくしてくれた相手に心が揺れるものなんじゃないだろうか?

 僕の疑問に、オティーリエは苦笑いを浮かべながら答えた。

「同じだったからです」

「……同じ。もしかして、『彼女』の親と同じってこと?」

 そう訊ねると、オティーリエは静かに頷く。

「そうです。『彼』は誰に対しても、等しく、どうでもいい。だから波風立てないように誰に対しても優しい。『彼女』の親が、あからさまな差別や虐待を『彼女』にしなかったのは、彼らの手を煩わせるようなことをする娘ではなかったから。大事な跡取りの兄とは違って、嫁に出す娘はどうでもいい。自分に向けられる関心のなさが同じだと、気づいたからです。だから『彼女』は『彼』の優しさに依存することはなかった」

 放置されていたから、愛を求めるかと思っていたらそうじゃなかった。

 なるほど……。母上とは違う考えだったんだな。


「そうだったんだ。気なることの二つ目。なんで『彼』は『彼女』に付きまとったんだろう? 誰に対しても等しく同じ。それは『彼女』に対しても、だったんだよね? なのに『彼女』に過干渉になったのはどうして?」

「あぁ、それは『彼女』が興味を示さなかったからです」

 ん? 興味を示さなかったから執着したってこと?

「誰に対しても優しい『彼』と知り合った相手、特に女子は、『彼』に対して好意を持って、関心を惹こうとしたり、仲良くなろうとしていました。でも『彼女』はそうじゃなかった。それが『彼』の何かに引っ掛かったのではないでしょうか?」

 自分に靡かない相手がいるなんて……おもしれー女、みたいな?

「自分に傾倒しない『彼女』が、癇に障ったのだと思うのです」

 『おもしれー女』よりも、もっとひどい思考だった~。

 もしかしたら、ジュスティスの前世である『彼』は、『彼女』と同じような立場だったのかも?

 常に自分と比べられる相手がいて、その相手よりも劣ってるという扱いを受けていた。それで、人前では誰もが子供にしたいと羨む理想の少年のようにふるまって、それが成功した。

 知り合った相手誰もが自分に興味を示し、周囲に人が集まるようになって、それが当たり前のことになっていたのに、『彼女』はそうじゃなかった。

 そりゃぁ、執着、するわな。


「あの人に興味を持たない相手なんて、『彼女』だけじゃなかったのに」

 オティーリエはため息交じりに、そうこぼした。

「確かに、その通りではあるんだけどさぁ」

 僕の見立てでは、たぶん、きっと、おそらく、『彼』は『彼女』に対して、初対面から恋心を持ってたんじゃないかなー?

 言葉を濁す僕に、オティーリエは眉を顰める。

「アルベルト様は、おわかりになってるのですか?」

「はっきり言いきれないけど、そうじゃないかなーって、予想かな?」

「仰ってください」

 言っちゃっていいものなのかなー?

 まぁ、避けて通れない問題ではあるんだけどさ。

「パニックにならないでほしいんだけど」

「はい」

「恋しちゃってたんじゃない?」

 オティーリエは何を言われたのかわからないって顔をする。

「自分に関心を持ってほしかったんじゃないかなって、思ったんだよ」

「『彼』が『彼女』のことを?」

 思ったよりも冷静というか、それほどショックを受けている感じではなさそう。

「うん、そうでなきゃ、説明付かないでしょう?」

 だけどオティーリエは、そんなの信じられないと言わんばかりだった。

「好きな相手に対して、わざと周囲から孤立させる嫌がらせをするんですか?」

 そっか、いじめられてたんだっけ。そんでもってそのいじめは『彼』が原因だったって、言っていたな。

「さっきも話しましたが、幼稚舎の時には、まだ友人と呼べる相手がいると言いましたよね? その子たちは初等部に上がって『彼』が同じ学校に入学してから、全員離れていきました。いきなり無視されたり、話しかけても冷たい対応をされたり、最終的には『近寄らないで。貴女のことなんて大嫌い』『モデルだからって図に乗ってる』『ちょっとかわいいからって自惚れるな』と言われたんです」

 当時のことを思い出したのか、オティーリエのアメジストのような紫の瞳は、暗く淀んでいるように見えた。



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