44 残ったみんなで密談
ジュスティスが立ち去って、残った僕らはお互いの顔を見合わせる。
「さて、どうみる?」
「イグナーツ様と事を構えたのに、見事なぐらいにスルーしていたな」
僕の問いかけに、ネーベルが答える。
あれねぇ……。
あの時の流れとしては、僕を探して呼びにきたアンジェリカが言った通り。
オティーリエたち女子組と、イジーとリュディガーが待ち合わせをしていたところ、ギーア男爵令嬢が難癖をつけてきたそうだ。
オティーリエが相手すれば、些細な発言で見当違いな思い込みを声高に責めてくるから、ヘレーネが対応する。ここまではいつものやり取りだった。
で、次からがちょっと違ってきて、ジュスティスが、何をしているんだと、しゃしゃり出てきたらしい。
ジュスティスは、オティーリエたちではなく、ギーア男爵令嬢の方に物申したそうだ。
人目が付く場所で、はしたなく騒ぎ立てているのはいかがなものか、とね。
まるで悪役令嬢のお相手であるヒーローのように、オティーリエのピンチを救いにやってきたわけだ。
その話を聞いて、ついに動いたかと僕は思ったんだけどさぁ、それにしても動くまでに時間をかけ過ぎじゃないか?とも思ったんだよ。
オティーリエたち女子組だけで行動する時間はちょくちょく作っていたわけだし。
タイミングを見計らっていたのかな?
ジュスティスにとって、オティーリエに近づくにあたって一番排除したいのは、オティーリエと付き合ってると噂される僕の存在だ。
僕が傍にいなくて、駆けつける様子もない、そういった状況を待ってた、と見ていいと思う。
やっぱりさ、ファーストコンタクトって、インパクトがある方が良いわけだし。
そこに僕という邪魔者がいない状況であってほしかったってことかな?
ともかく、ジュスティスはオティーリエを助けようと、ギーア男爵令嬢に物申したわけだ。
ギーア男爵令嬢を叱りつけたジュスティスが、オティーリエに「大丈夫でしたか」と声を掛けたら、オティーリエが悲鳴を上げて取り乱し、あの状態になったそうだ。
騒ぎを聞きつけたイジーは、リュディガーに教職員を呼びに行かせ、近づいて手を伸ばそうとしているジュスティスの前に立ちはだかって、オティーリエを庇ったと。
あとは僕が見た通りの流れだ。
オティーリエはあの日からずっと休んでいる。
授業に関しては、ヘレーネやアンジェリカがその日習ったことを教えているそうだ。
いわゆる自主学習状態だね。
体調の方は問題ないらしい。顔色が悪かったのは、精神的なものだったのかな?
それでもまだ出てこないということは、ヘッダから見て情緒不安定なのだろう。
ヘレーネやアンジェリカも、自分たちには元気に見せているけれど、実際はそうじゃないと思うと言っていたからね。
まぁ、この辺のことは女子組に任せた方が良い。
僕らの助けが必要な場合は、ヘッダがちゃんと言ってくるだろうからね。
ヘッダはその点、王子殿下に対して全く遠慮なんかしない。迷惑かけてなんぼで、使えるものは何でも使う派だ。
僕もそうしてもらった方が、気が楽でいい。
「まぁイジーのことを気にしていないというなら、それはそれで肝が据わってると見ていいんだろうね。きっとそのうちイジーに謝ってくると思うよ? あの時は失礼な態度をとって申しわけありませんって」
一緒に生活することになるんだから、あの時のことを無視しっぱなしってわけにもいかないだろう。
ラーヴェ王国の王子殿下に対して、あの態度は良くなかったって気が付くはず。
もし、そういったことを気にしないなら、まぁ、それまでの相手だってことだよ。
「あの方、本当に姉様のこと狙ってるんでしょうか?」
ジュスティスと対面してから、ずっと彼のことを窺っていたマルクスは、やはり姉であるオティーリエがターゲットにされているかどうかが心配なのだろう。
「好青年には見えたよね。警戒をしてない状況であったなら、付き合いやすい相手だなぁって僕は思ったよ」
僕の発言に、え?っとマルクスは声を漏らす。
「そう、なんですか?」
「うん。まぁそこはかとなく訳あり臭がするなぁとは思うけど、自分との付き合いに差し障りがないなら、いちいちそんなことを気にはしない」
「アルベルト兄様は、もっと……敵に容赦ないと思っていました」
敵かぁ。それを言うなら僕の敵はジュスティスじゃなく、女神ウイステリアだ。
「あいつ……、あの人は彼はアルの敵じゃない」
僕の気持ちを読んだかのように、ネーベルがぼそりと呟く。
ネーベルは僕の事情を知ってるから、確かにジュスティスを敵とは思わないだろう。そういう意味では、きっとオクタヴィア・ギーア男爵令嬢の方が、明確に『敵』と認定できるかもしれない。
だけどネーベル以外のみんなは、僕と女神のことを知らないから、違う意味で受け取ったようだ。
「ネーベルの言う通りですね。テオ様も言ってましたが、アルベルト様の敵に認定するには、あの方はなにか少し足りないですし」
クルトは相変わらず辛辣な物言いをする。
「足りない、ですか?」
聞き返すマルクスに、クルトはニコニコ笑いながら答える。
「アルベルト様の障害になるような要素がないってことですよ。まだテオ様の方がその位置に相応しいですね」
「やだね。アルを相手にするなんて、俺は御免だ。負ける気はないけど勝てる気もない。共倒れに持ち込めれば僥倖ってところだろ。まぁクルトの言うことは、あながち外れてもねーんだよな。どー見たって、アルとソーニョ……いやジュスティスか。土台がちげーじゃん」
テオは、自分なら僕に勝てると豪語しなかった。
そーいうところだよ!!
一見、煽てられたら調子に乗りそうな、そんな雰囲気を出していながら、テオは絶対油断しない男なのだ。
僕だってテオは絶対に相手にしたくないよ。
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