24 第三王女殿下の立場
しょぼくれてしまった第三王女殿下なのだが、ふわふわっとした復讐案は、僕に言わせると復讐でも何でもないので却下だ、却下!
「僕らの方でも、カプラ大公子息のことは公女関係でマークはしていました」
「は、はい、先ほど仰っていましたね」
「最終的にカプラ大公子息の身柄は第三王女殿下へお渡しします。それまではこちらで、あそ……んんっ、様子を見ながら泳がせたいのですが、それでよろしいですか?」
「……構いません」
「こちらが積極的に出ないのは、難癖をつけられないための自衛です。カプラ大公子息は僕らが管理している生け簀で泳いでもらいます。餌は用意しているのであとは釣り針に引っ掛かるのを待っている状態なんですよ。彼が餌に食いついて騒ぎを起こしてくれたなら、こちらの儲けものですからね」
にっこりと笑って言ったら、何とも言えない顔をされてしまった。
「そ、そうですか」
「あ、もしかして逃亡されること心配していらっしゃる? そこは大丈夫です。ラーヴェ王国の各国境関所には、すでに彼の似顔絵と本名それからこちらで詐称している名前を通達しています。出国させないように手配済みですので、彼が何かを感じ取って、ラーヴェ王国から逃げ出そうとしても、できませんのでご心配なく」
あと一応、うちのアッテンテータにも見張らせてるからね。逃亡の気配があるようだったら素早く確保するように指示は出してある。
あと学園都市の入出管も、ヘッダが手をまわしてくれているから、就学期間中に外に出ることはできない。
注意するとしたら、長期休暇で学園都市から離れる時期だ。
ソーニョがオティーリエを諦めて、他に入り婿先を捜すなら……、それはそれで構わないんだよね。ラーヴェ王国に何の被害も出ませんでした。僕のざまぁフラグも立ちませんでした。良かったねー、で済む話だし。
だからその場合は、さくっと捕獲して第三王女殿下にお渡しすればいいや。
「もしカプラ大公子息がうちの公女を諦めて逃亡を図った場合は、いち早く捕獲してそちらにお渡しします」
アフターケアーもばっちりやりますよって教えたのに、またしても微妙な顔をされてしまう。
「……僕、変なこと言ってる?」
「むしろ好待遇だと思う」
「こちらの主導でやらせてもらうので妥当です」
「おかしくないです」
ちょっと心配になったので、イジーたちに確認すると、異口同音でそんなことはないと言ってくれた。
よかったー。
「第三王女殿下」
「は、はい!」
「具体的な復讐案がないのなら、僕に協力してもらってもいいですか?」
下手に動かれて引っ掻き回されるよりも、こっちの指示で動いてもらう方が、ソーニョの動向も読みやすくなるんだよね。
第三王女殿下が独自でいろいろやりたいって言うなら、ならさっさと連れて帰れ一択だもん。
「構いません。よろしくお願いします」
情けなさそうな顔で、第三王女殿下は同意する。
「……わたくし、国王陛下を父に持つ身ですが、リューゲン第一王子殿下やイグナーツ第二王子殿下のように、真に『王族』としてできていなかったと痛感しました。王妃殿下や側妃様にはよくしていただきましたが、わたくしの存在は、今代のリトス王家では扱いに困る立場であると、幼き頃から理解しています。国王陛下はいずれ王家の益となる先に降嫁させる気でいますが、それも王妃殿下がたにすると……、どうでしょうね? 下手に降嫁させることができないと思われているでしょう。出家することは意外と早いうちから決めていたことなのです。だから……、王族の一員として名乗っている間は、ほかの王族の方々の邪魔にならないようにと思っています。第四王女殿下のことも、同じ側妃の子供ではありますが、わたくしとは違う。王妃殿下のお子達と同列の立場なのです」
なるほどね。なんかずっと引っ掛かってたんだよねぇ。
第三王女殿下って自分のことを卑下してるわけじゃないんだけど、他の異母姉妹に比べると、立場というか地位が低いって態度。
その証拠が、異母姉妹に『殿下』をつけて呼んでるところなんだよ。
これって同じ王女であっても、自分は臣下って認識なんじゃない?
そっかぁ、第三王女殿下って宿下がりして離縁した方の側妃の娘なんだ。それでもってその側妃は、おそらくリトスの王妃殿下の派閥の貴族家門じゃない。
もっと言えば、国王陛下……、『王家』とは反発し合ってる派閥なんだろう。
第三王女殿下の母上が、産後の肥立ちが悪く宿下がりしたって話も表向きの事情で、実際は王家派閥と何かあったのかもしれない。
だから敵対勢力である側妃はさっさと撤退し、切り札となりえる第三王女殿下は、王族だから母親に引き取らせることはできないとして王家に残された。
時限爆弾にするつもりだったのかもしれないけれど、王族だってそーんな甘くはねーんだわ。
おそらくそれで、第三王女殿下の庇護を王妃殿下自ら買って出たのだろう。
リトスの王妃殿下って、たぶんうちの王妃様と同じぐらいできる人だと思う。
だって敵勢派閥の側妃の子供ってなると、通常は排除って形をとるはずだ。
例えば放置系やイジメいや精神的な冷遇処置だったり、とにかく第三王女の心を折って歯向かわないようにするって手を使うところだろう。
でも、リトスの王妃殿下は自分のテリトリーに入れて、自ら庇護した。敵対勢力が王家に取り残された第三王女殿下に近づかないように、近づいても靡かないように自分の手元に置いて教育したんだろう。
捨てていった母親よりも、残された自分をいろんなところから守ってくれて、あまつさえ必要な教育を施してくれる義理の母親に心酔するのは当然だ。
そしてリトスの王妃殿下は、第三王女殿下を自分の子供と差別することなく、同じように育てた。
第三王女殿下が第四王女殿下に寄り添ったのは、その恩返しだったのかもしれない。
自分が王家の一員であるうちは、王家の人たちに尽くそう。その中でも同じ歳であり、妹と位置付けられた第四王女殿下の盾になり守ることが、自分の役割なのだと思ったに違いない。
次回更新は4/29です
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