23 復讐やるなら徹底的にやろうぜ!
おそらくソーニョは自分だって王族の血を引いてるんだから、何かがあれば王族になれるって考えて、それで第四王女殿下を利用しようとしたけれど失敗しちゃったわけだ。
だからラーヴェ王国に逃亡。
もうリトス王国にいてもその可能性はないと踏んで、ラーヴェ王国の地位ある女子、オティーリエのことなんだけど、婿入りしようと考えたんじゃないか?
血筋なら申し分ないだろうって。
でもその血筋も怪しーんだよなぁ。本人はどこまでそのことを知ってるかってところだよね。
「あと、第三王女殿下。貴女も相当甘いです」
「甘い……」
「復讐したい。それはわかります。えぇ、大いにやればいい。僕は、復讐は何も生まないなんて奇麗ごとは言いませんよ。そんなのは、復讐を考える方は百も承知で、充分わかってることですからね。わかっていたってそれじゃぁ気が済まない。これに尽きますよね。そして復讐できたとしても気が晴れることなんてない。もうずっと延々恨むし憎むし許せないって思う。いつか許すって言う人もいるかもしれませんが、大抵の人は、死んでも許さないって思いますよね。だから第三王女の復讐したいという気持ちを否定することはしませんし、やりたきゃおやりなさいと勧めます」
復讐を大いに勧める僕に、第三王女殿下は戸惑った様子を見せる。
「でもやるなら徹底的にやらないとダメじゃないですか。なにぬるま湯につかったやり方してるんです」
「ぬるま湯……」
「かなり前から、こっちからカプラ大公子息が身分詐称して留学してるんですけど、どうなってるんですかって連絡入れたのに、そっちの返事は確認しますって……。連絡が入った時点で隠密に長けたエキスパート使って捕獲しに来てくださいよ。本気で復讐する気あるんですか? それから、さっきも言いましたけどカプラ大公子息は、リトス王国もリトス王家も舐めてるんですよ? 彼に絆されないという点で、第三王女殿下の存在は厄介ではありますが、しかし脅威ではありません。カプラ大公子息がうちの公女に対して何か企んでいて、そこに貴女という人物が目の前に現れたとしても、本人は『あー、面倒くさいのきたなぁ、やりにくいなぁ』程度で、貴女がいるから『まずい! 逃げよう!』とは思わないはずです。カプラ大公子息にとって、貴女は自分の計画を潰す脅威ではなく、計画をやりにくくしてくる程度の効果しかもたらさない」
「あ、あの」
「なんでしょう?」
「も、申し訳ありません」
いきなり謝罪? なんで? ここは定番の『何も知らないくせに勝手なこと言わないで!』って言う場面じゃないの?
「復讐を勧められた挙句に、アレへの理解度が甘いと指摘されるとは思いませんでした」
え? そっち? 思わず隣のイジーを見たらうんうんと頷いてる。ネーベルとリュディガーまでも頷いてる。
なんでー?!
「やるなら徹底してやらないと、また逃げられると思うぞ」
イジー?!
「俺の兄上ならそんなヘマはしない。まず逃げられるなんてこと自体させない。兄上の場合は逃げられるのではなく、相手をわざと逃がすんだ。それでも放置しているわけではないぞ? しっかり監視の目をつけて、動向を逐一報告させる。逃げ道をふさぐのではなく狩場に誘導するんだ」
イジーの発言に否定できない。確かにそうしてるけど、なんか、なんか素直によくわかったねって言えない。
「じ、自分の甘さを痛感いたしました」
がっくりと項垂れる第三王女殿下に、そうだろうって顔をしているイジーたちとは裏腹に、第三王女殿下の付き人二人は、人外を見るような目を僕に向けている。
おい……、おいっ! なんだいその視線は!
「んんっ! 先ほどもお聞きしましたが第三王女殿下は具体的な復讐案があるのですか?」
咳払いして話を軌道修正する。
復讐したいって言ってるんだから、どんな復讐案なのか聞いておかないとね。
「アレのやることを邪魔を……、しようかと」
具体案!! なんでそんなふわふわしてんの?! 復讐したいんでしょ?! もっとこう、がつんっ!って感じの計画があるんじゃないの?!
「甘いです。捕まえてリトス王国に連れ帰って、王宮の地下部屋に閉じ込めて毎日拷問するんじゃないんですか? 簡単に発狂しないように加減しながら、毎日毎日絶望を味わわせてやらなくてどうするんです。復讐なんですからそれぐらいやりましょうよ」
そう言ったら第三王女殿下御一行からはますますドン引きされた。
なんで?! 復讐なんでしょ?!
「僕、間違ってる?」
隣にいたイジーに訊ねたら、ぶんぶんと首を横に振りながら、イジーは即答する。
「間違ってません」
だよね?! 間違ってないよね?! 普通はこれぐらいやるよね?
「……あの」
「なんでしょう?」
「わたくし、帰国しましたら出家することが決まっていまして……」
出家? なんでまた?
「最後のお願いということで、国王陛下と王妃殿下、そして側妃様に頼んで留学してきたのです。この留学はアレに引導を渡すという名目で……」
え? そうなの?
「なら、なおのこと、ひっ捕まえて、第三王女殿下が出家するまで、延々と拷問にかけるべきでは?」
「……も、申し訳ありません! そこまでの覚悟ができていませんでした!」
再び深々と頭を下げられてしまった。
「ふわふわしてるなぁ」
「してる」
思わずぼそりと呟くと、イジーも何度も頷く。
「確かにふわふわだ」
「言われてみればふわふわです」
ネーベルとリュディガーも小声で同意する。
だよねぇ? やっぱりふわふわだよねぇ?
そんな僕らの様子に第三王女殿下はひたすらに恐縮し、そしてお付きの人たちはやっぱり僕らの言ってることが常識から外れてるみたいな顔をしていた。
いや、王族をコケにしたやつを野放しにしてる時点で、君等の方がおかしいんだからね?!
次回更新は4/22になります。
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