19 隣国の王家で起こったこと、そのよん
ソーニョは異母姉妹だから仲が悪い、仲が悪くまではいかなくても第四王女殿下の性格から言って、きちんとできている第三王女殿下にコンプレックスを持っていると思ったのではないだろうか?
まぁ、年齢が近いきょうだいならば、多かれ少なかれそんな気持ちを片方に持つことはあると思う。でも、この第三王女殿下がさぁ……、外部から付け込まれやすい要素をそのまま放置しているとは思えないんだよねぇ。その手の不安要素はことごとく排除していったのではない?
王妃殿下に対して敬愛の意を示している時点で、敵対意思はないことを示しているのだ。
おそらく王妃殿下の実子である二人の姉君たちと末の弟君にも、側妃の子である自分よりも敬われるのは当たり前と、弁えた態度を突き通しているのだろう。
そして自分と同じ側妃の子であるという第四王女殿下には、同じ歳ではあるけれども、一番可愛がったのではないか?
僕ならやるよ? 兄弟間で軋轢を生むよりも、同士だと思わせる方が生存率上がるしね。
「アレに引き合わされる前から、わたくしは第四王女殿下に、わたくしたちは側妃の子供という同じ立場ですから、誰よりも近しい存在で、お互いの気持ちがわかり合う存在と認知させていました」
ほらね。思っていた通りだ。
ソーニョの色恋管理よりも、第三王女殿下の方が長いこと第四王女殿下に、自分は絶対的な味方であり、何があっても裏切ったりしない刷り込みを行っていた。
「ですから、アレが何かを言ったところで、わたくしと第四王女殿下の仲がこじれることはありませんでした。なんせアレが第四王女殿下と面会した後、必ずわたくしが第四王女殿下のもとに行き話をしていたのですからね」
たとえソーニョから洗脳のようなことをされていたとしても、すぐに第三王女殿下が対策をとっていたから、『自分にはソーニョだけしかいない』という形ではなく、ソーニョと第三王女殿下だけが自分を理解してくれるという形にもっていったのだろう。
そういった点では第三王女殿下の方が何枚も上手だったわけだ。
「ただ、恋愛感情だけはどうにもなりませんね。そしてわたくしも、あえて第四王女殿下のアレに対しての恋愛感情を妨げることはしませんでした」
まぁ『あの人間は良くない』なんて言おうものなら、第三王女殿下もソーニョのことが好きなのかと疑うことになっていただろうし、この手に関しては無理に否定してはダメだったんだろう。
でもどんどん情緒不安定になっていく第四王女殿下は、ソーニョの見舞いも渋るようになってきていた。
正確に言うと渋るというか、怖がる、恐れる、ソーニョの名を出すと顔を曇らす、といった具合だ。
「おそらく、それに気が付いたのは、アレに対して疑いの目を持ち、第四王女殿下に一番寄り添い傍にいた、わたくしだからこそだと思います。あの子の……、第四王女殿下の侍女たちも気が付きませんでした」
むしろ第四王女殿下のおつきの侍女たちは、見舞いに来るソーニョの訪問には喜んでいた。
第四王女殿下の恋心を知っていて応援していたし、ソーニョの誠実な人柄と全方位に向けての親切な態度は第四王女殿下のお相手としても相応しいと思っていた彼女たちは、ソーニョが見舞いに来ると、積極的に二人っきりにさせていたのだという。
もっとも、万が一の間違いがあってはいけないので、隣室には侍女と護衛騎士が控え、当然、部屋を隔てている扉も開けてという対策はとられていた。
この見舞いをきっかけに、仲を深めてほしいという思惑もあったのだろう。
だけどそういったお付きの侍女たちの配慮とは裏腹に、ソーニョとの面会の後の第四王女殿下の情緒不安定はひときわ激しくなっていったそうだ。
第三王女殿下はソーニョがいるとき以外は、ずっと第四王女殿下の傍にいたので、様子の変化にはすぐに気が付いた。
お付きの侍女たちの気持ちとは裏腹に、第四王女殿下はソーニョの見舞い、ふたりっきりになることを避けたがっていることに気づき、焦らず根気よく話を聞きだすことにしたそうだ。
すると第四王女殿下は、ソーニョのことは好きだけれど、彼と話していると自分が生きていていいのかわからない気持ちになると吐露したそうだ。
もう絶対なんか吹き込んでるだろうあいつ。
第三王女殿下だって、そのことに気が付かないわけがない。
そこで第三王女殿下は、第四王女殿下を見舞いに来るソーニョが、どれほど第四王女殿下の心に沿ってくれているのか確かめたいと説得し、了承させたそうだ。
作戦はいたって簡単で、第三王女殿下が第四王女殿下のふりをするというもの。
「わたくしとあの子……、第四王女殿下は背格好が似ているのです。身長や体重、そして体型も遠目であったり暗いところであったなら、判別がつきにくいでしょう。めったに顔を合わせることのない国王陛下などは、時々わたくしと第四王女殿下を間違えるほどですからね」
第三王女殿下はレモンイエローの髪にワインレッドの瞳をしているが、第四王女殿下はミモザ色の髪にラズベリー色の瞳なのだそうだ。
それで体型が似てるとなれば、遠目や暗いところでは、判別しにくいだろうね。
ソーニョよりも長くそばにいる第三王女殿下だから、第四王女殿下の癖や様子もわかっている。
第三王女殿下が第四王女殿下のふりをして寝所で掛布にくるまり、自分のお付きの侍女と第四王女殿下は寝所の天蓋カーテンに隠れてもらうことにした。
ついでに、第四王女殿下のお付きの侍女たちには、ソーニョに悪戯を仕掛けたいからこのことは黙っていてほしい。勘がいい人だから何時もと違う態度だとばれてしまうから、いつも通りの対応でお願いしたいと、騙くらかしたそうだ。
善意であっても侍女たちは遠回しに第四王女殿下を追い詰めていたから、第三王女殿下にとってはソーニョと同じく敵なのだろう。
なんかあれだなぁ。第四王女殿下の周囲にいたお付きの侍女たちは、昔、うちの王妃様の周囲にいた使用人たちと同じ心境だったんだろうなと思った。
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