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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(四年生)

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08 みんなで渡れば怖くない心理

 オクタヴィア・ギーア嬢にまつわる不可解な現象に、以前のアンジェリカも聞こえてきた声の言うとおりにしていた話を思い出したイヴは混乱した様子を見せる。

「待って、ちょっと待ってね……」

 少し考えこんで、その考えがまとまったのか、僕らを見ながら訊ねる。

「もしかして、アンジェリカも聖女になるかもしれなかった? アンジェリカが言っていた女の声って、女神の声だったの?」

 この辺のこと、僕はアンジェリカ自身とは話していたけれど、イヴに話してなかったんだよね。

「イヴも話を聞いてたから知っていたと思うんだけど、アンジェリカが訊いていた女の声は女神の声だ。コレは間違いないと思う。ただ女神がアンジェリカを聖女にしようとしていたのかは不明だ」

「……そんなことって、あるの?」

「女神ウイステリアは、シュッツ神道の神よりも、人間側に近い存在だと思うよ。まぁ、いま僕が悩んでるのは、この女神と繋がりがあるオクタヴィア・ギーア嬢の影響で、騒ぎを起こすかもしれない生徒がいるってことね。もっと言うと、オティーリエのところの寄子令嬢が、オクタヴィア・ギーア嬢に突っかかって、騒ぎを大きくするんじゃないかってことだ」

 僕の話にヒルトは確かにと納得する。

「淑女科のクラスでも、オティーリエ様の寄子家の令嬢は、オクタヴィア・ギーア様の言動にいい顔をしていません」

「寄子家の令嬢を抑えるのは、オティーリエ様の領分だろう? アルがそこまで気に掛けることか?」

 ネーベルの言うことも一理あるんだよ。

「巡り巡って僕のところに余波が来る」

「余波?」

「例えばオティーリエが寄子家の令嬢たちの行動を気にかけていない、行動において統制が取れていなかった場合。彼女らがオティーリエのためという名目で、オクタヴィア・ギーア嬢に何らかの行動を起こしたとしよう。人前での口頭注意なら、周囲だってそんなことを言われるオクタヴィア・ギーア嬢のほうが悪いって思う。でも、それが過剰な制裁になったらどうだろうか?」

「そんなことになるの?」

「人はね、一人よりも大勢で行動すると、気が大きくなるんだよ。『みんな一緒だった』『自分だけではない』となると、行動も大胆になるし、エスカレートしていく。オクタヴィア・ギーア嬢は、貴族とか平民とか、身分関係なく女性受けが悪いタイプだよね」

 僕がそう言うとイヴとヒルトはお互いの顔を見合わせて、オクタヴィア・ギーア嬢の日ごろの行いを思い出したのか、うんうんと頷く。

「イヴやヒルトもそう思うんだ。オティーリエの傍にいる寄子家の貴族令嬢なんて特にそう思うんじゃないかな? 彼女たちは自分のバックにはオティーリエがいる。気に入らない人物を排除するのに、『オティーリエのため』という名目は、ちょうどいい隠れ蓑になる。まぁ、中には本気で、オクタヴィア・ギーア嬢の存在は、オティーリエの邪魔になると考える人もいるかもしれないけれど、とにかく、その『オティーリエのため』が使えるようになるんだ。オクタヴィア・ギーア嬢を排除するにはうってつけの魔法の言葉だね」

 ついでに、何かがあったときに『オティーリエの指示だった』と、保身に走るものだって出てくる。

「で、オクタヴィア・ギーア嬢はおそらくシュタム会ではなく僕らに被害を訴えてくるだろう。オティーリエに嫌がらせを受けている。ってね」

 オクタヴィア・ギーア嬢への嫌がらせは、彼女が僕とイジーに近づく格好の理由になる。

「そ、それは……、ありえると言えてしまうのが怖いわ」

「そうなる前に、周囲には弁えた行動をとってもらいたいんだ」

「……わかりました。オティーリエ様の寄子家の令嬢たちの動向には、目を光らせておきましょう。何度もオクタヴィア・ギーア嬢に突っかかっていくようでしたら忠告もしておきます」

 淑女科の生徒は、オティーリエと親しくしているヒルトの言葉に耳を傾けてくれるだろう。

 だけどヒルトは、それだけで終わりにはならないと言わんばかりに僕を見る。

「アルベルト様」

 きた。こういう時のヒルトは僕も何か言われる。

「なにかな?」

「この方法は一時しのぎです」

「うん、わかってる。僕の方からもオティーリエに言う。自分のところの寄子家の令嬢たちの手綱をしっかりと握っておいてもらわないとね」

「どういうこと?」

 イヴはいまいちよくわかっていないようだ。

「ヒルトから言ってるんだから、バカなことしないでしょう?」

「それがねぇ、しちゃうんだよねぇ。ヒルトとオティーリエは仲がいい。しかも女子からも人気がある。だから忠告されたら、そうねって納得してくれる人もいる。だけど、中には自分はアインホルン公爵家の寄子家の人間だから、他のところからの命令は聞かないって考えの人もいる」

「なんだか頭でっかちな考えねぇ」

「コレが貴族の面子というものなんだ」

「面倒くさいって言っちゃダメなのよね?」

 実際、面倒だと思うよ。

 もとより、オティーリエに忠誠を誓ってる人物なら、オクタヴィア・ギーア嬢がどれほど無礼なことを仕出かしたとしても、オティーリエが不利になるようなことはしない。

「貴族の面子かぁ……。でもこういうのちゃんと考えられないと足を引っ張られるんでしょう?」

「そうだね」

 イヴもいろいろ思うところがあるのだろう。なにやら考え込んでしまったようだ。

「それにしてもウイス教の聖職者たちは、聖女の世話係をアルとイグナーツ様に言う前に、それが不敬なことだって考えられなかったのか?」

 ネーベルもそこが引っ掛かってるようだ。

「聖女と認定されたオクタヴィア・ギーア嬢の世話役を僕らにさせようと、誰が言い出したかは不明だけれど、言ってきたバウチ司祭たちはそれほど深く考えてなかったと思う。ただ、聖女に王子殿下……、そう以前流行ったあの聖女と王子の小説のようになれば儲けものと考えた人が、どこかにいたはずだよ」

 それを考えた人がウイス教の総本山にいる人たちだったなら、下位の支部の司教たちに、口頭で言わせたのは、形として残したくはなかったと見ていいだろう。

 僕らを小間使いにさせること自体が、不敬であり図々しい申し出だとわかっていたはずだ。だから親書として残すリスクを避けた。

 だって何かがあったら、責任を取るのはウイス教の総本山で、大司教だ。

 世界的な宗教の頂点に立ってる人間が、そんなことを考えられないわけがないだろう。



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