01 進級早々呼び出しされた!
春、ルイーザ先輩たちの卒業を見送り、僕らは四年生に進級。
三年生の終わりに起きた女神の悪戯は、ある意味在学生徒たちを大いに騒がせ、話題づくりの一環となったわけだが、打ち上げ花火のように大きく打ちあがることはなかった。
ついでに卒業生たちの卒業後のプロムで、ルイーザ先輩とベーム先輩に何かが起きたわけでもなかった、らしい。
で、またしても僕、そして今回はイジーもなんだけれど、学長室に呼ばれた。
もー、学力テストの不正疑惑騒動で、学長室にトラウマがあるんだけどぉ?
「兄上」
学長室の扉を睨みつけていたら、隣にいたイジーに声をかけられ、慌てて笑顔を見せる。
「なぁに?」
「……笑顔が引きつってます」
そりゃぁ引きつりもするよ。だって進級早々に学長室だもん。絶対、良いことでの呼び出しじゃないよ。
「中に入りましょう」
そうだね。
学長室をノックすると。内側から扉が開く。
前回同様、スーツをびしっと着こなしているお姉さんが、出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。どうぞ中にお入りください」
デジャブ。
学長室にいたのはトーア学長と見たこともない生徒が二名。それから……オクタヴィア・ギーア嬢と、教会の聖職者が三人。
どういうこっちゃ。
「リューゲン殿下、イグナーツ殿下。お呼び出しをして申し訳ありません」
「学生ですから、僕らが足を運ぶのは当然ですよ」
僕の返事にトーア学長は何とも言えない顔をする。
「まずはお座りくださいませ」
トーア学長そう言って手のひらで指示した場所は、あの日僕が座ったソファー。嫌なこと思い出させるよなぁ。
そしてイジーは当たり前のように、上座に僕を座らせる。
ここ、本当はイジーが座る場所なんだよ? わかってるのかなぁ。
誰も何も言わずに、当たり前のように僕を座らせるようにするんだもん。イジーを見るとどうしましたか?と言わんばかりだ。表情に出てないけれど、イジーの目がそう言ってるんだよ。
グダグダ言って話を長引かせたくないから、素直に上座の席に座る。イジーは二番目にあたる場所に座った。
ソファーに座るのは、僕とイジー、トーア学長と聖職者の方。それからオクタヴィア・ギーア嬢だ。
見たことのない生徒は立ち尽くしている。
どういうこっちゃ。
「先に紹介をさせてください、こちらは学園都市内ウイス教会の司祭と助祭の方々です」
トーア学長の紹介で、聖職者の方々が自己紹介を始める。
「私は司祭のバウチと申し上げます」
「助祭のクメローです」
「同じく助祭のザイラです」
聖職者の人たちが名乗った名は、キリスト教で言うところの洗礼名だ。
ウイス教は出家すると洗礼名を貰って、それまで名乗っていた名を封じるんだそうだ。よくわからんけど、そういう決まりらしい。
「今日、殿下方をお呼び出ししたのは、このオクタヴィア・ギーア嬢のサポートをお願いしたく存じます」
「はぁ? どういうことですか?」
思わず声が低くなってしまった。
そして以前のことを思い出したのか、トーア学長とおそらく秘書であろうお姉さんが顔を真っ青にさせる。
「オクタヴィア・ギーア嬢は女神ウイステリアのお声を聴く聖女であると、ウイス教国の大司教長が認定したのです」
目を輝かせながらそう口を挟んできたのは、ザイラと名乗った助祭だった。
「それはおめでとうございます」
「まぁ、そんな、おめでとうだなんて……。でも、ありがとうございます」
おめーに言ったんじゃねーんだけどなー。
頬を赤く染め、くねくねしながらオクタヴィア・ギーア嬢は感激を表す。
「ですので、王子殿下方に彼女のサポートをお願いしたいのです!」
身を乗り出してザイラ助祭が言い募るのだが、おめーよー、なんでそこで『ですので』ってなるんだよ。訳が分からねーわ。
「殿下方は学業の他に公務もされている。大変お忙しい身であるとご説明したのです。しかしウイス教の皆様が、どうしても直接殿下にお頼みしたいと言い出されまして」
トーア学長は焦りながらも、『自分たちは止めた』『呼び出したのは自分たちの意思じゃない』的な言い訳を始める。
結局のところ、トーア学長としては、学び舎内で宗教関係と摩擦を起こしたくない。ウイス教の関係者の言い分を突っぱねて、無下に扱えないってことなんだろうな。
だからって、なんで、その聖女と認定された女生徒をわざわざ王族にサポートさせるのかがわからん。
いつも無表情のイジーは、珍しく眉間にしわを寄せている。そして今の段階で発言する気はないようだ。
ただし厳しい視線を司祭と助祭の二人に向けている。
誰もが僕の発言を待ってるって様子だ。
なんでだよぉ。こんなのさぁ、普通に考えればわかるものでしょう?
「僕からの疑問は二つあります」
「何でしょうか? どうぞ仰ってください!」
食い気味でトーア学長が問いかける。
「まず一つ目、聖女となられたギーア男爵令嬢のサポートを、なぜ王族の僕らがしなければいけないのか?」
そう言って、僕はウイス教の聖職者たちに視線を向ける。
「と、言うか、聖女になったのならウイス教国へ連れて行った方が良いのでは? ウイス教総本山であるウイス教国で、聖女として貢献していただく方がよいのではないでしょうか?」
僕の発言に、司祭と助祭たちは戸惑った様子を見せる。
「か、彼女はまだ未成年ですので……」
「聖女として従事していただくのは、王立学園を卒業してからと考えております」
しどろもどろと言ったザイラ助祭の言葉をバウチ司祭が引き継ぐ。
まぁ、その辺はウイス教のやり方があるんだろうからね。聖女に認定された人物の出家がいつ行われるとか、そういうのは成人する前に出家するしないって話に言及する気はない。
じゃぁ、最初に言った疑問に対しての回答はどうなんだよ。





