113 剣術大会で起きたハプニング
そして行われる剣術大会。
ヒルトは安定した強さで順調に勝ち進み、イジーもいいところまで勝ち進んだけれど、四回戦辺りで敗れてしまった。
これは仕方がないよねぇ。イジー、騎士科じゃないもの。訓練に明け暮れてる毎日じゃなくって、王子殿下としての仕事もしてるしね。
テオとヴァッハは二回戦でかち合って、勝負はテオの勝ち。ヴァッハはあの様子だったから逃げの一辺倒かな?とも思ったら、意外や意外しっかりテオと打ち合いをして、潔く負けてしまった。
試合終了後に、テオとヴァッハが顔を近づけて、何か話していた様子だけど、歓声で何を話していたかはわからない。
最後に和解した感じで握手をして、仲良さげに肩を組んで試合場から出て行ったから、試合で実力を認めあって、なんやかんや友情が芽生えたみたいに見えた。
まるで週刊少年誌のようなやり取りで、ちょっとうらやましい。
そんなテオだったのだけれど、準決勝手前の試合で負けてしまった。
これはねぇ、やっぱり先輩強いんだよねー。それに勝てちゃうヒルトが規格外ってだけの話だからさ。
で、案の定ヒルトが決勝まで勝ち進んだわけなのだが、なんと決勝戦の相手はベーム先輩だった。
ヒルトが一年の時にベーム先輩と試合して、その時は四回戦? いや、五回戦だったかな? 準々決勝の前の試合だったはず。そこでヒルトと対戦して、ぼこぼこにされたんじゃなかったっけ?
大丈夫かな? あの時のことトラウマになってない?
大勢の生徒が見守る中、試合会場に入ってきたベーム先輩は、ぐるりと会場を見回すと、観客席の一角……女生徒たちが固まって陣取っている方向をむいた。
ベーム先輩の視線の先にいるのは、ルイーザ先輩。その隣にはシュテラ先輩もいる。
「ルイーザ!」
え? なに? なんぞ?! 何が始まるんだ?
「もし、俺が優勝したら、再婚約を申し込ませてくれ!!」
うわ! やりやがったあいつ!!
ベーム先輩の宣誓にシーンとなった後、ワァァァァァ!!と、試合会場は歓声に包まれる。
うわっ! なんでそこで、そんな歓声だしちゃうの? ベーム先輩が言ってる内容をちゃんと理解してる? 再婚約って言ったんだよ? 再婚約を申し込ませてくれって! つまりそれは二人の婚約が駄目になってるって事でしょうが。理由なく婚約が駄目になるわけないんだから、何があったかって考えなさい!
駄目だこりゃぁ。劇的な瞬間に立ち会った!って空気になってる。
反応は三つに分かれてる。
物語のような出来事だと燃え上がって、バッドエンドがどんでん返しでハッピーエンドになるかもと期待してる生徒。事情を知ってるもしくは再婚約に何かを察したのか、ブーイングを飛ばしてる生徒。最後は白い目でベーム先輩と、ベーム先輩の味方になって騒いでる生徒を見ている生徒。
こわ~。
で、当のルイーザ先輩は?
僕がルイーザ先輩の様子に注目したように、周囲……、いやベーム先輩の宣誓を聞いた観客の生徒たちも、ルイーザ先輩の返事が気になるのだろう。
再び試合会場は静まり返り、ルイーザ先輩へ注目が集まる。
ルイーザ先輩は満面の笑みだった。
そりゃもう、花が咲くような笑顔で、そして叫んだ。
「ヒルトさーん! がんばってー!!」
ベーム先輩ガン無視で、ヒルトに声援を送るルイーザ先輩に、誘発されたのは事情を知ってる人たちだ。
「ヒルト様ぁー!! 勝ってくださーい!!」
「ブリュンヒルト様ぁ!! 優勝してぇー!!」
「そんな奴ぶちのめしてやってー!!」
「ヒルト様しか勝たん!!」
「紅蓮の王子様! やっちゃえー!!」
ルイーザ先輩の事情を知っている女子と、元からヒルトのファンである女子の声援に、事情を知らずともベーム先輩の発言に、白い目を向けてた人たちまで乗ってきた。
「ブリュンヒルト様ー! がんばれー!!」
「やっちまえー!!」
「そんなやつべこべこにしてやれー!!」
さっきまでベーム先輩に声援を送っていた生徒は、ルイーザ先輩の反応や、それに同調する生徒たちに目を白黒させている。
え? 二人は思い合ってたのに引き離されたんじゃないの?って感じだ。
「ど、どういうことだよ?」
「なにが?」
「あの二人無理やり別れさせられたんじゃないのか?」
「何言ってるの? 意味が分からないんだけど?」
「だって無理やり別れさせられたから、あんな風に宣言したんだろ?」
「お前ら、ちったぁ頭使って考えろよ。ベームのやつ再婚約って言ってんだろ?」
「だからさぁ、想いあってたのに婚約がなくなったんでしょ?」
「誰もそんなこと言ってねーだろ?」
「婚約って本人の意志で決まるもんじゃないわよ。ほとんど親の都合じゃない」
「いや、でもさぁ」
「でもさぁ、じゃねーだろ? ランゲ嬢のあの反応じゃ、ベームのことなんか何とも思ってないみたいじゃん」
「婚約がなくなった事情知ってるわけでもないのに、勝手に盛り上がってんなっつーの」
「だってそんな雰囲気だったじゃない!」
「そんな雰囲気だったのはウルリッヒ・ベームだけよ」
僕らの前で観覧していたグループが言い合いをしてる。
やっぱベーム先輩に同調して騒いでるのって、ベーム先輩の宣言がまるで物語の一場面みたいだったから、なんだろうな。
劇的な瞬間に立ち会ったことに興奮して騒いだけど、ルイーザ先輩の反応に、『あれ? なに? 二人とも愛し合ってるんじゃないの?』って、ざわざわし始めている。
そんな観客をそっちのけで、厳しい顔をした審判がベーム先輩になにか言ってる。
学園行事の真っ最中に、私的な発言しちゃぁ、そりゃぁ審判も怒るわなぁ。
でも、なんかおかしくないか?
ベーム先輩が僕のところに来て、ルイーザ先輩のことであれこれ言ってきたけど、最後らへんはもう諦めたって感じだったよ?
めちゃくちゃ未練たらたらだったけれど、あれは、ルイーザ先輩が好きだったからじゃない。婿入り先がなくなったから、自分の将来はどうしたらいいんだっていう不安で、しつこくうだうだ言ってた気がしたぞ。
なーんか怪しいなぁ。





