104 二回目のご破算と三回目の婚約
ギーア゠フォルトシュリット伯爵令嬢の二回目の婚約がご破算になったのは、一回目の婚約がなくなって二年後のことで、王立学園の卒業目前のことだった。
二回目のお相手は、事業提携の話が絡んだ政略込みの婚約。
一回目の婚約がなくなった後すぐに、相手の方から話を持ち掛けられ、ギーア゠フォルトシュリット伯爵も相手の家と、婚約者になる人物を調査し、おかしなところは何もなかったために結ばれた話だったそうだ。
「当時のギーア゠フォルトシュリット伯爵は、用心深い人物だったようでな、相手の素行を調べて何もなかったから大丈夫だと、慢心することはなかったそうだ」
おじい様の話によると、婚約をする子息本人に、この婚約はまず両家の事業提携によって発生した政略であること。そしてもし他に好きな相手がいる、いなくても政略での婚姻をしたくないと言うのなら、事業契約には政略の婚姻は含めず、他の条件に変更することを前もって伝えたそうだ。
「相手の子息はな、自分には他に好きな相手はいないし、貴族なら政略の婚姻など当たり前だと言ったそうだ。それでギーア゠フォルトシュリット伯爵は話を進めたんだがな」
やっちまったんですね、男爵令嬢との浮気を。
「伯爵令嬢との婚約が決められてすぐの頃から、男爵令嬢と親しくなっていたらしいのよ。学生時分の気の迷いという言い逃れができない状態よね」
おばあ様がしみじみと語り、おじい様も、理解できんと小さく呟く。
お二人はラブラブですからね、そりゃぁわからんでしょうよ。
と、いうことは、男爵令嬢が自分の婚約者に近づいていることを、伯爵令嬢は初期段階で知っていたはずなのでは? なのに、二年間泳がされて、卒業式間際に大事になった。
「発覚は、伯爵令嬢の身の回りの世話をしている侍女からの報告だったのよ」
怪しい。
伯爵令嬢は最初からそうなることを知っていて、だからこそ一回目の時に男爵令嬢を庇ったんじゃない?
父親の伯爵は一回目の時に、いくら娘が庇ったと言えども、相手に勘違いをさせるような態度をとっていた男爵令嬢も悪かろうと考えていたようだし、男爵令嬢に対しての信用は皆無。こいつは絶対またやらかすと踏んでいたからこそ、自分たちに忠実な侍女を娘に付けていた。
娘は娘で、実際のところ一度目の時から男爵令嬢に対しての、恨み辛みあとは憎しみがあって、ただの処罰で終わらせたくない。もっと酷い目に遭わせてやりたい。そう思ったからこそ、庇ったんじゃないか?
だって同じことが二度起きたら、言い逃れができないじゃないか。
しかも一回目の婚約がご破算になる前から、男爵令嬢は伯爵令嬢に対してマウントをとっていたそうだしね。
もっと効果的に相手を遣り込める。そう、まさに『ざまぁ』をする舞台を整えたかったに違いない。
もしかしたら卒業式後のプロムで、婚約破棄騒ぎを起こさせる気だったのかも。
でも、そんな場所で婚約破棄騒ぎが起きたら、娘の価値が下がる。だから伯爵は先に手をまわし、卒業式よりも前に婚約を終わらせたのかも。
「そんなことがあったために、二回目の婚約もそこで終わったそうだ。だが、これでおしまいにならないことは、アルベルトもわかるだろう?」
「ですねぇ。既に一回やらかしてるわけですし、もしかしてそこで伯爵家は、分家であるギーア男爵家を家門から除籍したんですか?」
「そうだ。ギーア゠フォルトシュリット伯爵家とギーア男爵家は別の家門とすると宣言し、国にその手続きをとった。それでも、最後の恩情として、伯爵家は男爵家に婚姻の世話をしたんだ」
「婚姻の世話って……。それは恩情でも何でもないでしょう?」
「だがそうでなければ、延々と遺恨が残るだろう?ギーア゠フォルトシュリット伯爵は、分家に煮え湯を飲まされ、腹立たしいことをされたが、もうそこできっぱりと縁を断ち切りたかったのだよ」
だから婚姻の世話。
つまり、浮気をした二度目の元婚約者である子息と、子息に言いよったギーア男爵令嬢を強制的に結婚させたそうだ。
二度目の婚約者ぶんどりで醜聞にまみれたギーア男爵令嬢と、結婚したいと言い出すお相手は出てこないだろうし、それは浮気をした相手の子息も同じ。
いわゆる臭いものを一か所にまとめて、蓋をしたのだ。
「でも三回目が起きたんですよね?」
「起きちゃったのよねぇ」
ほんわりとした口調でいながら、おばあ様の目は笑っていなかった。
「ギーア゠フォルトシュリット伯爵令嬢の三人目のお相手は、伯爵家の寄親であるビリヒカイト侯爵からの推薦だったのよ」
ビリヒカイト侯爵。そうです、宰相閣下のお家です。
「まぁ寄親ですしねぇ、寄子家に対しての心配もあったと思うけれど、この手の醜聞は早くもみ消した方が良いのよ」
社交界では弱みになる話だしな。
「当時のビリヒカイト侯爵は、寄子家のギーア゠フォルトシュリット伯爵に、自分のところの他の寄子家との婚約はどうだろうかと打診してきたのだ。おそらく寄子家の結束を固めたかった思惑もあったのだろうな」
それはそうだろう。
「三回目のお相手は子爵家の子息で、歳は伯爵令嬢よりも五歳上。ギーア゠フォルトシュリット伯爵令嬢との話が出るまで、子爵子息に婚約者がいなかったのは、特徴のないご容姿だったから、らしいのよ。それでお断りされること二回。ご本人もね、仕事が楽しすぎてそちらに没頭するタイプだったから、婚姻に積極的ではなかったようなの」
そんな二人が顔合わせしたら、二人とも今までの反応とは違って、妙に意気投合し、あっという間に婚約が決まったらしい。
もう婚約吹っ飛ばしてそのまま結婚してもいいだろうと周囲は言っていたのだが、当人たちが、一年ぐらい婚約期間を満喫させてほしいと強請ったそうだ。
あと、結婚式の準備大変だからね? うちの母上だって再婚が決まっても式を挙げるまでめっちゃ準備期間かかってるからね。
で、三回目の騒動は、その一年間の婚約期間に起きたそうだ。
男爵令嬢の伯爵令嬢に対しての執着、まるでホラーのようだね。





