80 好きな子をデートに誘った
険悪な空気にブルーメ嬢があわあわとしてしまう。
ヘレーネ嬢は男性全員がフィッシャーと同じと言ったわけではないのだが、イジーはそんな風に言われたように感じたのだろう。
頭ごなしにイジーを責めるのは何か違うだろう。
もちろんヘレーネ嬢に非はないから、イジーの肩を持つのも違う。
「二人ともダメだよ。そんな言い方や態度をしたら」
僕の仲裁にイジーとヘレーネ嬢は気まずそうな顔をする。
今日はみんなで、テオの放課後訓練を見に行く予定だったけれど、大丈夫か?
そうこうしていると、ネーベルとリュディガーが迎えに来た。
不正疑惑の難癖をつけられた話を聞いたネーベルが、自分が迎えに行くまで単独行動はもちろん、みんなと一緒にいても勝手に動くなと言ってきたのだ。
おそらくアインホルン学長の暴走を危惧してのことだと思う。
不正疑惑の調査結果はちゃんと伝えられることになっている。けれど、その不正疑惑そのものの出来事を有耶無耶にするために、僕に危害を加えるようなことをしてくるんじゃないかと、ネーベルは警戒しているのだ。
そこまでするか? という思いもあるけれど、絶対にないとも言い切れない。追い詰められた人って本当に何をするかわからないからね。
迎えにやってきたネーベルは何となくギスギスしている空気を察したのだろう、何か言いたそうな顔をするものの、どうしたのかという問いかけをすることはなかった。
みんなで騎士科の訓練所に向かって、放課後の剣術の訓練をしているテオに会いに行く。
観覧スペースにはヒルトがいた。
「アルベルト様。ネーベル」
手を振っているヒルトのそばに近づくと、ヒルトのそばにいた女生徒たちが離れていく。
ヒルトのファンだったのかなぁ? 邪魔してごめんねー。
「ヒルトだけなの?」
「ヘッダ様はお仕事でお忙しいようですよ」
僕の件で動いてるのか。
「イヴはあちらです」
そういって、ヒルトは少し離れた方を見る。
そこには騎士科の生徒とイヴが、楽しそうに笑いながら話していた。
う、わ~!! なんか、なんか、すっごく腹立つ~!!
昼メンバーの男子がそばにいてもこんな風に思わないけど、全く知らない男子と仲良く話しているイヴを見て、なんでそんな風に笑うんだよ! って思っちゃった。あと男子生徒にも、おめーよりも僕の方が無限大にイヴのこと好きだぞ! とも思っちゃった。
なんて理不尽。そして心の狭さ。
これが嫉妬ってやつだ。恋って怖い。
「イヴが戻ってくるまでに、威圧はひっこめろよ?」
「アルベルト様、視線でお相手を殺しそうですよ」
ネーベルは呆れながら、ヒルトは笑いながら、周囲のみんなに聞こえないように、ひそひそと忠告してくれる。
二人に言われて、慌てて両手で顔を覆う。
くっそー、二人して僕のことからかって~!!
ヒルトなんか、僕以外の男子生徒がイヴに近づかないように牽制すると言ってたくせに、ちゃっかり僕を煽るようなこともしちゃうんだからさ。
わかってるよ。あの時、僕がイヴのことを囲うのかと聞いたときにヒルトが肯定したのは、お膳立てをするのだからやる気を起こせと言いたかったのだ。
そしてこうやってイヴが見知らぬ男子生徒と仲良さげに話しているのに、近づく男子を牽制せず、イヴの好きなようにさせてるのは、この場面を僕に見せて煽っているのだ。
ムカッとするけれど、僕がちゃんとイヴにアプローチしてないのが悪い。
「ヒルト、お待たせ……って、あら、アルベルト様達やっと来たのね?」
悶々と考え込んでいたら、戻ってきたイヴの明るい声が聞こえる。
モヤモヤするけど平常心だ。
ヘタレの僕がちんたらしてるのが悪い。イヴは悪くない。イヴと仲良さげにしてた男子は知らん! そんな奴のことなんか思考に入れたくねー!
「どうしたの? 顔、手で覆って。どこかぶつけた?」
そういって、イヴが僕の顔を覗き込んでくる。
可愛い。はい、優勝。イヴが世界で一番可愛い。
「やだ、真っ赤じゃないの。熱でもあるんじゃない? それとも暑さにやられたの?」
「だ、大丈夫」
温暖化で夏場は異常に暑い地球とは違って、この世界は夏場の正午に外に出れなくなるほど気温が高くなるってことはない。
それでも暑いことは暑いけどね。
「無理しないでね」
「うん。イヴは暑いの大丈夫?」
「下町育ちを舐めないでほしいわね」
ふふんとどこか自慢げにイヴは言う。
「でもね、ヒルトったら外出るときはちゃんと日傘を使えっていうのよ」
「……日焼け予防かな?」
「凄い! アルベルト様、男子なのによくわかったわね。女の子なんだから日に焼けちゃダメだっていうのよ」
「私だって健康的なのが一番だと思ってるけれど、肌が日に焼けるとソバカスができやすくなるんだ」
紫外線でメラニン色素ができるからだろうね。
「え?! 嘘?!」
「嘘言ってどうするんだ。だから、スキンケアーをちゃんとするようにと言ってるんだぞ」
言動が男子っぽいけど、ヒルトはちゃんと侯爵家のご令嬢だからね。美容系のことをちゃんとしてるのは、ネーベルに好かれたいって気持ちもあるんだろうな。
「外に出るときは日焼け止めのクリームと、日傘は必須だ。お風呂上がりにもちゃんと化粧水を使うように」
クドクド言い始めたヒルトに、イヴが面倒くさいと言いたそうな顔をするけれど、同時に、そうやって世話をしてくれるヒルトに嬉しそうでもある。
ヒルト、いいなぁ~。イヴとキャッキャできるの良いな~。
いやいや、羨ましがってないで、デートに誘えって言うんでしょう? わかってますって。
「イヴ、今度のお休み。僕とネーベルとそれからヒルトの四人でお出かけしよう」
「え?」
「下学部の方のショップ街にあるカフェ店で、氷のお菓子があるんだ。食べに行かない?」
「下学部のって、前にヒルトたちの健闘会したお店?」
「うん」
「行くわ!」
やったー。食いついてくれた~。
本当は二人で出かけたいけど、一応僕王子だからさぁ、防犯のこと考えたら女子と二人でお出かけなんてできないんだよねー。
グループ交際から始めさせて~。





