60 異母弟にも話をしておく
「アルベルト様。少々お耳を」
僕とヴァッハが話している最中に、シルトが声を掛けてきた。
「イグナーツ殿下がお見えになりました」
そう言えば、今日、リュディガーと遠出に行ったときのお土産を渡したいって言ってたっけ。
ちょうどいいや、変に警戒させないようにイジーにも話しておこう。
「こっちに通して」
「かしこまりました」
シルトは一礼して部屋を出ていく。
「お客様? ならそろそろ帰るよ」
「いや、説明しなきゃいけないからここにいて」
「説明?」
「怪しげな行動をとっていた君の説明。フェイクを入れるから、僕に話を合わせてね」
頭のなかが疑問符で一杯だろうヴァッハをよそに、シルトに案内されたイジーがやってくる。
「兄上、リュディガーと……」
表情には出てなかったけど、瞳をキラキラさせながら入ってきたイジーは、僕と向かい合って座っているヴァッハに気が付いて、途中で口を閉ざしてしまう。
「いらっしゃい。こっちにおいで」
手招きしてイジーを呼び寄せ、僕の隣に座ってもらう。
「なんでここにヴァッハが居るのか不思議?」
「はい」
「ヒルトの実家で捕まえたんだ」
イジーにはシュヴェル神の主神殿に行くことを伝えていたし、今日、お互いのお土産を渡しっこする予定だったんだよね。
「シュヴェル神の」
「家出中だったんだって」
「家出?」
想像していたこととは違う内容の話だったのだろう。何度か瞬きをして、イジーはヴァッハを見る。
「学園に入学する前にね、ご両親と勘違いで喧嘩していたんだってさ。それで、家なんか継がない。何処かに婿入りしてやるって勝手に決めちゃって、オティーリエのお婿さんになろうと思って付きまとってたそうだよ」
「短絡的な……」
「だよねぇ。それで、ソーニョに唆されたみたいだよ? そんなに家にいたくないなら自分の部下にしてあげる。そのかわり婚活手伝ってーって」
「こんかつ?」
「結婚相手を見つける活動。略して婚活」
「あぁ、なるほど」
「ところがソーニョも、オティーリエのところに婿入りしたかったようだね。そこでヴァッハに繋ぎをとってもらおうとしていたみたい」
「オティーリエに、ですか?」
「うん」
「リトス王国の伯爵家の人間が?」
「跡継ぎじゃないからねぇ」
僕の話を聞いてイジーも気が付いたようだ。
リトスの伯爵家の人間が、他国で婚活をするのはなんで? ってね。
「ソーニョはただの伯爵家の人間ではないのですか?」
「違うよ。ソーニョの正体はカプラ大公殿下のご子息」
カプラ大公殿下が、かつて自分の母親に婚約破棄を告げた相手であることは、イジーも知っているだろう。
「オティーリエの婿に、ですか?」
おーおー、珍しく怒っちゃって、まぁ。イジーは王妃様のことを母として尊敬しているけれど、マザコンじゃないから、もっと冷静に話を聞くかと思ったけど。いや、これは自分の身内をコケにしまくっているリトス……、カプラ大公家族に憤ってるのかな?
「それは、許されるんですか? 法的には問題ないことは知っています。でも、ラーヴェ王国の王妃を貶めた相手の血族が、ラーヴェ王国の継承権を持っているアインホルン公爵家の人間と結婚?」
「無理だねぇ。法的に問題がなくても、心情的にラーヴェ王国の中枢にいる貴族たちは反対するよ。リトスからの侵略だってでっちあげを行ってでも阻止するだろうね」
それだけカプラ大公殿下のやらかしは、大問題だったということだ。
「だからソーニョは、自分の素性を隠して結婚する気でいるんだよ」
でなかったら、堂々と大公子息として留学してくるでしょう?
していない時点で、彼は素性を隠してラーヴェ王国の人間と結婚する気でいるのだ。おそらく、婚姻を機に、ラーヴェ王国に帰化する気でいるんだろうね。
それだけ彼の婚活はリトスでは難しいってことだ。
「レアンドロ・ヴァッハ。お前はそのことを知っていたのか?」
いきなり話を振られたヴァッハは、情けない顔で僕とイジーをかわるがわる見比べる。
「えーっと、ジュスティス……って、あのレオナルド・ソーニョのことなんだけど、本人から直接、聞きました」
「なんで手を貸していたんだ」
「えっと、その親との事でちょっと……。言うとおりにしたら、なんとかしてくれるみたいな感じだったんですけど、殿下に騙されてるって言われて」
イジーはヴァッハを見つめた後、僕の方を見る。
「ラーヴェ国民がリトスの大公子息に食い物にされるのは、心穏やかにはなれないよねぇ」
嘘も方便だ。まだ、イジーにはヴァッハがリトスの先王陛下の子供であることは話さないほうがいい。この状況で話したら、リトス王家の人間なら、ヴァッハはソーニョと手を組んでるんじゃないかって疑うだろうしね。
ヴァッハが先王陛下の子供であることは、いずれイジーに話さなくちゃいけないのは分かってるけれど、それは今じゃない。
「ヴァッハから話を聞けば聞くほど、どうもソーニョはオティーリエとの結婚に執着しているっぽいんだよ」
「無理なのに?」
「素性が知れたら無理だけど、隠して結婚する気だからね。それと、僕は知らなかったんだけど、僕ってオティーリエと付き合ってて婚約者なんだって。そういう噂があるみたいなんだけど、イジー知ってた?」
僕の話を聞いてイジーは目を見開く。
そっかぁ、やっぱりイジーも聞いてなかったかぁ。
三学年になってからは一緒に行動してるし、イジーの耳には入ってこないのは、おかしいことでも何でもない。
ネーベルとヒルトは僕の側近だって知ってる人も多いから、二人の耳には入らないようにしていたっていうのも考えられる。
他のみんなはどうだろう? 確認しないとなぁ。





