46 何処の王家も内情はドロドロだ
そんな難しいもんじゃないと思うんだけどなぁ。
「ネーベルとヒルトは分かる?」
「大公夫妻の贅沢が、リトスの国庫をひっ迫させてるから、金が欲しいって事だろう?」
「ヴァッハを誘拐したと難癖付ける理由は、それを理由に賠償金をラーヴェ王国から引き出したいってことですね」
「大正解。だから、まぁ、建前上? リトスの国王陛下は、年の離れた弟であるヴァッハが生きてたから取り戻したい、なんて言ってくるだろうけれど、それは本心じゃないからね。実際は『スキャンダルを広められたくなかったらお金ちょーだい』ってこと」
リトス王家が王妃様にイジーを王太子にしろって言ってきてるのも、イジーが王太子になってラーヴェ王国の国王になったら、リトス王家に援助……、もっと言えばラーヴェ王国の国庫からリトス王家の負債を賄わせたいってところだと思う。
借金や援助の申し出なんかじゃない。
ラーヴェ王国の財布をリトスの財布にする気なんだよ。
相当国庫にお金がない状態なんだろうなぁ。
「でも、さっきの話は、あくまで国同士の話。ヴァッハやヴァッハの家族に何かの罪に問えるかというと、微妙なところだよね」
「え?」
「だってヴァッハ伯爵夫妻は、ヴァッハが生まれる前までは、リトス王国に行き来していたけど、産まれた後にリトス王国に入国したことがないんだもん」
ヴァッハ伯爵との繋がりは、先王陛下の忠臣とだけ。その忠臣もヴァッハが生まれる前にしか、ラーヴェに行き来していない。生まれた後はリトスから出ていないのだ。
ヴァッハをラーヴェに連れて来たのは、ツァンナ伯爵夫人がいた旅芸人の一団である。
誘拐した罪を問うなら、その旅芸人集団になる。
って言うか、ラーヴェ王国はそう持っていくよ?
うちは関係ありません。子が亡くなった家に、捨て子が置かれていたから、そのまま保護して捨てられ先の実子として引き入れました。って言い張るよ?
むしろ捨てられた赤子を助けたのは、我が国の伯爵家なんですが、文句あんのかゴラァってやるよ?
だからラーヴェ王国も、ヴァッハの育ての親であるヴァッハ伯爵家も、感謝こそされ非難される謂れはない。
「しかもリトス王国のレアンドロ王子は、公式には死んでるじゃないか。自分の九番目の子供は生まれてすぐに亡くなったって、親である先王陛下が発表してるんだよ? リトスの国王陛下が何かを言ったとしても、先王陛下が自分の発言を撤回していない以上、先王陛下の九番目の子供であるレアンドロ・アトゥ・ノーヴェ・ツァンナ・リトスは、最果ての門を潜っていて、この世で生きていないんだ。リトス王家がヴァッハのことを国際問題にするなら、まず生きているということを先王陛下の口から言わせなきゃいけないんだよ」
僕が思うに、先王陛下はそんな事はしない。
先王陛下はヴァッハがリトスにいたら命の保証がないと思った。だから、生かすために、死んだことにして、自分の手元から離したのだ。
そんな偽装までしてラーヴェ王国に逃がしたのだ。今更、実は生きてましたなんて言うわけがない。先王陛下は自分が最果ての門を潜っても、自分の子供であるレアンドロは生きていると認めないはずだ。
「リトスの国王陛下が君を自分の離れた弟だと言い張るのなら、まず先王陛下に死んだという発言を撤回させなきゃいけない。それをしないで、死んだとされている君の存在を、ラーヴェ王国の人間に誘拐されたと言い張ることはできないんだよ。そこは分かるよね?」
そんなことをリトスの国王陛下がやったら、ラーヴェ王国に対しての言いがかりになる。
不利な状況になるのはリトスのほうで、金をせしめるどころか、支払わなければいけない。リトスの国王陛下にとってはそれだけは避けたいところだろう。
「君が心配することはさ、自分のせいでヴァッハ伯爵夫妻が誘拐犯にされて、迷惑をかけるってことではなく、自分を育ててくれた伯爵夫妻ともども、殺されるかもしれないってことなんだよね」
「さ、さっき、リトスの国王陛下は、俺が邪魔でも殺さないって」
「リトスの国王陛下はね。そもそも先王陛下の末子は死んだことになってるわけだし、そこを突っつくにはリスクが高いから、リトスの国王陛下はヴァッハの存在を知ったところで触らないで放置するしかない。じゃぁ誰がヴァッハと家族を始末しようと考えるかってことになるんだけど、それはさぁ、リトスの国王陛下とその子供に玉座にいてほしい人たちだよね? 大公殿下は盆暗だから玉座につかせようと考える者はいない。あと二人の王弟殿下はいるけれど、二人ともすでに継承権を手放してる。脅威は、死んでいるはずなのに生きてた最後の王子様であるヴァッハだ。リトスの国王陛下の指示がなくても、君の存在が邪魔だと思ったら、刺客を送ってくるでしょう?」
実際のところ僕に刺客を送ってくる人っていうのは、リトス王国ひいては国王陛下に都合がいい状況に持っていかせようと考えてる人たちなんだ。
あっちは、まだ僕が王太子になると思ってるから成人前に始末して、一人生き残ったイジーを王太子にさせようと考えてる。
僕としてはもうイジーが王太子になるって公表してもいいんだけど、王妃様はイジーの周囲をラーヴェ王国の人材で固めきれていない懸念と、リトスへの牽制できる材料がないから、まだ公表したくないらしい。
だったら、ヴァッハの存在は利用できないかなー?
「ところで君は、いつ自分がリトス王国の先王陛下の子供だって知った?」
「学園都市に来る前に、両親から話があるって……」
ぼそぼそと呟くヴァッハに、嘘ではないだろうなと思うんだけど、これまでの行動を見るとどうも引っかかるんだよなぁ。





