09 優しい先輩から聞く七不思議
上学部の先輩、しかもご令嬢相手だから、ルイーザ先輩にはアポ取りしてから、会ってもらうことにした。
待ち合わせ場所は、僕らがよく寄り道をしている雑貨店街のカフェ店。
この学園都市にやってきて一番最初に入った、あの店である。
お茶もスイーツも美味しいのに、他のお店に比べると、なぜか来客が少なくて、僕らはいつも待たされることなく店内のイートスペース、もしくはテラススペースでお茶を飲んでいく。
「なんでこんなに人がいないんだろう? 立地条件は、他のカフェ店と変わらないと思うんだけどなぁ」
「建物じゃないか? この建物結構古い」
「でも柱の意匠や店内の天井とかは、こじゃれてますよね?」
「清潔感もあるし、店内の天井の梁にも埃ないですよ」
ルイーザ先輩が来るまで、僕とネーベルとクルトとリュディガーで、そんなことを言ってる横で、テオはひたすらメニュー表に目を通し、イジーは機嫌がよさそうに僕らの話に耳を傾けている。
僕らはすぐに席を確保できるし、ゆっくりできるから、人が少なくて助かってるところもあるけれど、店側としたら、やっていけないんじゃないかなぁ?
大丈夫なんだろうか?
そうこうしていると、店内の出入り口の扉が開いて来客を告げるベルが鳴る。
出入り口のほうに視線を向けると、ルイーザ先輩ともう一人の女生徒がいた。
「先輩、こっちです!」
手を振るテオにルイーザ先輩は笑顔を浮かべ、接客のウェイターに何か言ってから、こちらへと近づいてくる。
「待たせてしまってごめんなさいね?」
「僕らも今さっき来たところですので、お気遣いなく。どうぞ」
椅子を引き、ルイーザ先輩と、そのお友達に座ってもらう。
「先にお茶と本日のおすすめケーキを頼んでしまったのですが、大丈夫ですか? 他に食べたいものがあったら、追加注文します」
ルイーザ先輩の隣に座った女生徒は目を見開いて、ルイーザ先輩へと顔を向ける。
「ちょ、ルイーザ。貴女の婚約者なんか、比べ物にならないほど紳士じゃないの。何処でこんな素敵な後輩君たちと知り合ったの?」
「やめてちょうだい。アルベルト君たちに失礼でしょう? 紅茶とケーキはありがとう。大丈夫よ。頼んでくれたものを頂くわ」
そう言ってから、ルイーザ先輩はお隣にいる女性を僕らに紹介してくれた。
「こちらは親友のシュテラ・ケラーよ」
「シュテラと呼んで。お邪魔虫でごめんなさいね」
「ごめんなさいね、私一人だとちょっとね……」
ルイーザ先輩の視線が、お店の入口のほうに向けられ、それから誤魔化すような笑顔を見せる。
聞いてほしくなさそうだし、そっとしておくか。
あらかじめ頼んでおいた注文の品が運ばれてから、ルイーザ先輩に本題を切り出すことにした。
「学園都市の七不思議って知ってますか?」
僕の言葉に、ルイーザ先輩とシュテラ先輩が、それぞれ驚きから、表情を崩していく。
「ふふ、アルベルト君からお話があるって聞くから、どんな話かと思ったら」
「男の子はみんな、そういったことに興味持つわよ?」
「大体の男の子はね。でもアルベルトくんは、こんな嘘か本当かわからない噂話には興味を持たないように思ったから、意外だわ」
「面白そうな話を聞くのは好きですよ。だけど、七不思議の話を持ってきたのは、テオです」
「俺でーす」
にぱっと笑うテオを見て、ルイーザ先輩とシュテラ先輩は相好を崩す。
「それで、先輩たち知ってますか? 七つの不思議があるっていうのは聞いたんですけど、内容は全然知らねー……じゃなくって、ないんです」
物怖じすることなく訊ねるテオに、ルイーザ先輩たちは笑顔で頷いた。
「知ってるわよ。そうね、概要は後にするとして、七つの不思議を教えるわね。まずは、学園都市の下には地下迷宮がある」
「次は講堂に出てくる幽霊」
「それから、学園都市内を彷徨うデュラハン」
「北階段の踊り場の鏡に映る奈落への階段」
「時計塔の嘆きの令嬢」
「一年周期で現れる礼拝堂」
「秘密の庭園にある願いが叶うバラ」
ルイーゼ先輩とシュテラ先輩は代わる代わる七不思議を教えてくれた。
「最初の地下迷宮だけど、入口はどこにあるのかわからない。だけどその迷宮の奥には財宝があるという噂よ」
おぉう、まるでRPGのダンジョンのようだぞ。
そしてこの迷宮と財宝の話は、みんな目を輝かせている。そうね、冒険の匂いがプンプンするもんね。迷宮見つけて探検したい。財宝見つけたい。って思うよね。
「講堂に出てくる幽霊は、卒業間際に不慮の事故で亡くなった生徒がいたそうなの。それで、卒業することが叶わず、思いが残って講堂で卒業式が行われるのを待っているというものよ」
卒業式ねぇ……。
「学園都市を彷徨うデュラハンは、この学園都市は昔の要塞の跡地なのよ。魔獣に攻め込まれて、この要塞は壊滅してしまったのだけど、その時に要塞を守っていた騎士の怨念がデュラハンとなって彷徨い続けているという話」
「この彷徨うデュラハンが、地下迷宮を守っているという説もあるわ」
ルイーゼ先輩の話にシュテラ先輩の注釈が入る。
デュラハンかぁ、ますますダンジョンっぽいぞ。
「北階段の踊り場の鏡に映る奈落への階段はね、決まった時間になると、鏡に奈落へと続く階段が映し出されるそうなの。でも北階段って、上学部の学舎にも、下学部の学舎にもないのよね。なのに北階段の踊り場にある鏡って、どこから出てきたのかしら?」
言われてみれば確かに。下学部の学舎って、東西には階段があるけど南北の階段はない。隣接している上学部の学舎だって、向きは同じだ。
「時計塔の嘆きの令嬢は、上学部近くの公園にある時計塔のことね。恋人に裏切られたご令嬢が、時計塔から身を投げて亡くなったと言われてるのだけど、真偽は不明なの」
「不明?」
「時計塔から身を投げたとなったら、時計塔の立ち入りは禁止になると思うのよ。でもあそこは、解放時間は決められているけれど、立ち入り禁止にはされていない」
確かに。
「一年周期に現れる礼拝堂はね、学舎内に現れる礼拝堂があると言われているわ」
「ただし、この礼拝堂、神殿の礼拝堂か、それとも教会の礼拝堂か、わかってないのよね」
そうか、神殿にも教会にも礼拝堂があるんだっけ。
「最後に、秘密の庭園にある願いが叶うバラね。この学園都市には庭園が三つあるわ」
「下学部の庭園と上学部の庭園。それから中央公園内にある庭園ね」
中央公園はこの学園都市にいくつかある公園の中で一番大きな公園だ。
「この三つの庭園以外に、隠された四番目の庭園があって、そこにどんな願いも叶えてくれるバラがあるそうよ」
秘密の庭園……、シークレットガーデンか。バラって春と秋に咲くんだよね。
どの話もありそうと言えばありそうな不思議話だけど、このうちのいくつかは本当の話が湾曲したものなんじゃないかな?
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