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泣き疲れて眠るリヒトの頬を撫でながらノクトは深い溜息を落とす。
音を立てずにゆっくりと入ってきたルナの顔は今にも泣きだしそうだった。
「忘れちゃってたんだね。私たち。
家族が増えて嬉しくて幸せで、大事なことを見落としちゃってた」
「あぁ。
……リヒトは馬鹿じゃない」
誰かが言わなくても気付く。
誰かが教えなくても知ってしまう。
誰も何も言わなくても感じ取ってしまう。
血縁、実子、養子、後継ぎ。
リヒトを拾って家族になって、まったく意識しなかった単語がはじめて重たく圧し掛かった。
「俺たちよりもずっと自分の立ち位置を把握して敏感になってやがる」
「……そんな難しいことノクトや私に押し付けて好きなことして笑っててくれたらそれでいいのに。
バカね。本当に、バカ。」
爵位を与えられた貴族。その中でも特殊で重要な役割を担うこの家の“後継者”はとても重要で大きな問題になる。
監視対象である王にとっても、“今”に不満を持ち忘れ去られた英雄を再び表舞台に引っ張り出したい連中にとっても、次の当主候補の情報は喉から手が出るほどに欲しいものだ。
付け込めむ隙をみつけるために、利用できる可能性を見いだすために、飼いならすまでいかなくとも、“良好”な協力関係にもちこむために、ありとあらゆる手段で干渉してくる。
いつどんな形で巻き込まれるか、利用されるか分からない。
そしてそうなった時、それが周りにどんな風に影響を与えるのかということをリヒトは幼いながらに理解していた。
いつかノクトの跡を継いでこの家の“当主”になる妹か弟の為にできるだけ早く身を引いて、無益な争いを避けなければならないことをリヒトはもうちゃんと理解していた。
だから、あんなに泣きながらも頑なにノクトとルナから離れなければならない日から目をそらせずにいる。
ノクトもルナもそれが哀しくて悔しくてならない。
こちらが気付いて手を伸ばすよりずっと前にリヒトはひとりで気付いて悩んで笑顔の裏に押隠して、自分で決めようとしてしまう。
今だって、いやだと泣きながら最後まで「ここにいろ」という言葉にリヒトは頷かなかった。
「リヒト」
涙の跡がクッキリと残る頬をルナの指が優しく撫でる。
「忘れないで。私たちもセイラもアルバもあなたが大好きなのよ。
血の繋がりなんて大したことじゃないの。そんなものがなくたってあなたは私とノクトの大事な息子なんだから」
「ガキが小難しいことを考えてんじゃねぇよ。
セイラとアルバが産まれたからってお前が俺たちの子どもじゃなくなるわけねぇだろうが。
それくらい、解れ」
リヒトが眠っているソファーの前に座り込んで頭や頬を撫でながらそう囁くノクトとルナに背後から溜息混じりの呆れた声がかけられる。
「そういうのはちゃんと起きてる時に言ってやれ」
「ボス、姫様、リヒト様をとられてちい姫と坊ちゃんがご立腹で……もう私たちじゃ手に負えないんでお願いします。」
「「にぃーーー!!」」
慌てて振り返ると呆れ顔のジオとちょっぴり疲れた顔をするニナ、リヒトを呼びながら必死に手足をばたつかせてジオとニナの拘束から抜け出そうとする双子が居た。




