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しばらくじっとリヒトを見つめていた視線がなくなり、大きな溜息が零れる。
その気配にビクリと肩を震わせながら恐る恐る顔をあげると珍しく、本当に珍しく心底困ったような顔をするノクトと目があった。
「ぼす?」
「……ダメだな。
何かあればルナは勝手にわんわん泣きやがるし、ニナもココアと菓子があれば簡単に口を割る。
ジオは…勝手に沈んで自己完結していつの間にか浮上してやがるな。」
簡単にその様子が想像できてしまったリヒトはパチリと目を瞬いてノクトを見た。
「……ぼす、」
覚悟を決めた、けれど不安をいっぱいいっぱいまで詰め込んだような小さな声が空気を震わせる。
「なんだ」
「俺が、なに言っても俺のことキライにならない?」
ノクトの服の裾を握りしめる小さな手は色が変わるくらいに力が込められていた。
本当に不安を感じている。それも、とても大きな。
それが表れた言動に、今まで気がつかなかった事が悔しくて情けなくて、それでも手を伸ばしてもらえることが嬉しくて愛しくて、ぐちゃぐちゃと駆け巡る感情を抑えつけながら意識していつも通りの声を紡いだ。
ついでに全く似合わない深刻すぎる顔を指で軽く弾いておく。
「んなことくらいで嫌いになる訳ないだろが」
「……うん」
ようやく少しだけ安心した様にぎこちない笑みを浮かべたリヒトにノクトもほっと息を吐いて、静かにリヒトの言葉の続きを待った。
「……あのね、俺、たぶん、怖いんだ」
「怖い?」
「セイラのこともアルバのことも大好きなのに、なのに、ちょっとイヤなときがあるんだ。
俺に手を伸ばしてくれるふたりは可愛くて大事で大好きな妹と弟なのに、なのに、俺、おれ、すっごくモヤモヤする時がある」
「……」
「ボスと姉ちゃんをとられたみたいで、苦しくて、モヤモヤする。
……ほんとは、分かってるんだ。ちゃんとボスたちが俺のこと好きでいてくれるって。
だけど、でも、おれ、」
「馬鹿野郎。……そういうことはもっと早く言え」
そうしたら、ここまで不安にさせることなんてなかった。
もっとはやく気付いて、もっと早く抱きしめてやれた。
もっと気をつけてリヒトに時間を割いてやれた。
リヒトが不安や寂しさに泣くことなんて絶対にさせなかった。
「だって!」
「喜びはしてもそんなことで嫌いになったりしない。俺もルナもジオもニナも」
可愛い息子に必要とされて喜ばない親がどこにいる。
それが手のかからない、いい子過ぎるリヒトならなおさらだ。
もっと甘えればいい。もっと頼ればいい。もっとわがままを言えばいい。
そう思ったことはあっても、その逆を思ったことは1度もない。
リヒトのワガママは、リヒトのお願いは、全部自分たちの為のもので、いつだってリヒトのよりも自分たちが得をすることの方が多くていつも、どうやってそれを返そうかと頭を悩ませる。
なにをやったって、どんなことをしたって、最終的には自分たちのほうが幸せを貰う。
そのくらいに大事でどうしようもないくらいに可愛い息子だ。
不安になるならそれを忘れるくらいに抱きしめてやる。
双子にヤキモチを妬くなら、同じだけかまってやる。
睡眠時間を削ってでも時間をつくってやる。
だから、もっと甘えればいい。
こうしていっぱいいっぱいになるまで溜めこまずに、もっとわがままを言って困らせればいい。
それが、子どもであるリヒトの仕事なのだから。
涙をたくさん溜めて唇をひき結ぶリヒトと視線をあわせてノクトは優しく囁いた。
「そういうのをワガママとは言わねぇんだよ」




