52
セイラは混乱していた。
あの夜、確かに勢いのまま告白した。しかしリヒトの態度が一ミリも変わらない。
やってしまったと思いはする。するけど現状が全く変わってないってどういうこと!?
混乱を極めたセイラは作戦会議をすることにした。その為にまず、男性陣を締め出す。
「ジオとアルバは出てって!!聞き耳立てたらぶち抜くからね!!」
言い訳にしかならないが本当に混乱していたのだ。
完全に談話室を占拠したセイラは恋する乙女の顔でルナに助けを求める。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう!
ママ、私どうしたらいいの!?」
ニナはその珍しい光景に目を瞬かせながらココアを飲んで様子を見守る。
談話室を占拠するという暴挙に出たことも珍しいが、あのセイラが半泣きでルナに縋りついているのも珍しい。
抱きつかれて縋られているルナもなんのことか分からずにきょとんと未だかつてないくらいにテンパっているらしい娘を見ている。
そんな保護者達の視線に気づく余裕のないセイラは半泣きで事の次第をぶちまけてルナに抱きついたまま「どうしよう」を繰り返していた。
「ようやくですか。おめでとうございます。ちい姫様」
ココアをテーブルの上に置いてルナをガクガクと揺すっているセイラの肩にそっと手を置く。
振り返ったセイラは次の標的をニナに絞った。
「ニナ!私、どうしたらいいの!?
ママもニナもどうやってパパとジオと結婚したの!?」
「「……どうやってって言われても」」
紆余曲折あったがどちらもなるべくしてなったとしか言えない。
どちらかというとルナは今のセイラのようにノクトにピタリとくっついて近寄る女を牽制して―――というかヤキモチを妬きまくって―――いたらいつの間にかお嫁さんというポジションにおさまっていたし、ニナはニナで付き合いはじめてからながされるままに結婚した。
「どうやったの!?玉砕覚悟で突撃!?色仕掛け……はないか」
「「どういう意味!?」」
中々に失礼な発言に二人はため息を吐いて混乱しながらも暴走しているセイラに向き直る。
「あのね、セイラ。焦ってばっかりじゃダメよ」
「そうですよ。リヒト様にだって考える時間が必要ですし」
「違うの!答えは私が15になった時に貰うの!!
だからあと2年で絶対兄様をおとさなきゃいけないの!!
兄様より私の方が時間ないの!!なのに、全っ然意識してもらえないのーーーー!!」
取り乱すセイラにルナとニナは目を合わせて眉を下げた。
「うーん、今更リヒト様に意識してもらうってかなり難しくないですか?」
「リヒトにとってセイラは可愛い妹だものね。
ただでさえリヒトは鈍いみたいだし」
困り顔でしみじみ呟くルナとニナにセイラが吼える。
「傷口に塩を塗り込む暇があったら兄様に意識してもらえる知恵を貸してよ!」
「まぁ、面白そ……そっちの方が安心というか、他所のご令嬢を連れてこられるより精神的にマシな気がするので協力はして差し上げますよ」
「そうねぇ。セイラの暴走を見るのも楽し……可愛い娘の恋路を応援するのも親の務めよね!」
「二人とも本音が駄々洩れよ!」
潤んだ眦を釣り上げてこちらを睨みつけてくるセイラにニナとルナは小さく笑ってその頭を撫でた。
ステラは広い庭園をゆっくりと歩いていた。
目的はない。
ただ、あの夜からモヤモヤがとれないでいる。
そのモヤモヤの原因もよく分からないからステラはどうしようもなくなってこうしてひとりで花々が咲き誇る道を当てもなく歩いている。
休憩に立ち寄った東屋でふぅと息を吐いて顔をあげた。
そこで初めてステラは自分以外の人間がそこにいることに気がついた。
「アルバ様!?
どうして……?」
「俺がココにいるのはおかしい?」
「おかしいというより恐ろしいです」
どこまでも素直なステラは自分の失言に気付いていない。
ムッとするアルバにも気付かずにステラはもしかしたら自分のこのモヤモヤをアルバなら取り去ってくれるかもしれないと思って口を開いた。
「アルバ様、どうしてあのお姉さんはあんなことをしたんでしょうか?」
助けてと言えばリヒト兄様はきっと助けてくれたのに。
もっと違う方法があったかもしれないのに。
ボスや父様ならもっといい方法を知っていたかもしれないのに。
とっても優しいお姉さんだったのに。
「どうしてセイラ様もあのお姉さんもあんなに苦しそうなんでしょうか?」
ただ、リヒト兄様が好きなだけなのに。
“好き”っていう気持ちは温かくて嬉しくて幸せなはずなのに。
父様も母様もあんなに仲良しで幸せなのに。
「……たぶん好きだから苦しいんだよ。姉さんもあの女も」
「どうしてですか?よくわからないです」
「さぁね。でも、あの女は守り方を間違えたんだ。
だから兄さんも姉さんも苦しいんだ。」
「守り方、ですか?」
「……そんなことよりジオが騒ぎ出す前に中に戻るよ」
「はい!アルバ様、迎えに来てくれてありがとうございます」
「……別に」
さしだされた手をしっかり握りしめてステラは歩きだす。
心の中のモヤモヤはまだ消えないけどそれでも繋いだこの手を離さなければそれでいい気がした。
手のひらから伝わる体温が、手をひく力強さが何も心配しなくていいと言ってくれているような気がして、ステラはアルバの半歩後ろでふんわりと笑って隣に並ぶ為に足を速めた。




