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「さて、問題はこれをどう処理するか、か」
穏やかに和んでいた瞳をすっと細めてノクトは面倒くさそうに手紙を睨みつけた。
本来ならこれほど悩む理由はない。ふざけた依頼だというのは向こうも重々承知の上でこちらが受けるとは思ってはいないだろう。こちらとしても結果が見えている戯言に付き合ってやる義理などない。もっというならセイラに見せた三枚目に書かれていた夜会の話なんて断わる気満々だ。受けるとしてもジオを代理にたててノクトは参加する気はない。
それでもノクトが頭を悩ませているのは持ち掛けられたふざけた依頼に利用価値を見出してしまったからだ。
二枚目に書かれていたこの戯言を利用するか、このまま手を出さずに自然の成り行きに任せるか。
利用した場合ターゲットたちどういう反応が見られるのかも気になるし、それによって巻き起こる人災の度合いも将来のために知っておいた方がいい気もする。
いざという時のためにまずはこのくらいで実験しておいて備えておくべきだとも思う。備えあれば憂いなしだ。
だが、その為の準備もなかなか面倒だとも思う。
なにせちょっとした出来心からはじまった実験でトンデモナイ被害を起こされたらたまらない。
裁き方によっては大惨事に成り得る面倒な素材だという自覚もある。
でもまぁ。
「何ごとも経験だよな」
その一言のもと答えを決めたノクトはどうやってそこまで誘導するか策を練り始めた。
誰がどこまで騙されて、誰がいつどこで気がつくか。
自分の予想がどこまで通じて、どこからどんな風に逸れていくのか。
自分相手にどこまで食らいついてこれるのか。
「お手並み拝見といこうじゃねぇか」
愉しみでしかたないと歪められた唇を隠しもせずにノクトは素材を提供してくれるらしいマルティーニ伯爵からの手紙を丁寧に封筒にしまった。




