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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の追究〜  作者: スズキ
最終話 「とある屋敷の物語」 VS資産家/後鳥羽院朱音
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二・主人と客人



「それは災難でしたね」


 二宮からこの屋敷に来るまでの経緯を聞いた朱音は彼の座るソファーの前のテーブルに、煎れたてのコーヒーが入ったカップを置いた。


「どうぞ」


「わざわざすいません」


 二宮はカップと一緒に運ばれたコーヒーシュガーをコーヒーに混ぜてそれに口をつけると、「おいしい」とひとこと呟いた。


 ここまでの間で、朱音は二宮のことを気さくで感じのいい好青年だという印象を受けた。言葉づかいが妙にばか丁寧だったり、なぜか刑事と行動を共にしていることなど、気になる点はあるにはあったのだが、基本的には彼のことを礼儀正しい、好感の持てる少年といってよかった。


「そうですか、ディズニーランドに行った帰りで足止めに」


「いやあ、この家を見つけられて本当に良かったですよ。危うく立ち往生するところでした」


「だけど、高速道路を使わなかったんですか」


「そこなんです。原因は僕と一緒に来たあの大川さんなんですがね、高速道路代をお土産代に回そうって言い出して、一般道使って帰る羽目になったんです。高速道路を使ってたら、いまごろとっくに家に帰っていたはずなのに」


 二宮がそんなことを話していると、当の千尋が「さむい、さむい」と口にしながら居間に入ってきた。


「噂をすればです」


 千尋は暖炉を見つけると一目散にそこへ向かい、暖炉の火の前にしゃがんで冷える身体を温めた。


「どうだったの」


 二宮が暖炉の前に両手をかざして温めている千尋に向かって訊いた。


「市役所に電話してさ、いますぐ現場に向かって土をどかす工事をするんだって」


「それが終わるの、いつになりそうなの」


「実際に現場を見てみないと詳しいことは判らないけど、もしかしたら明日の朝までかかるかもしれないって」


「明日の朝!」


 そう声をあげると、二宮はため息をついた。


「参ったなあ。明日は学校なのに」


「あたしだって仕事だよ」


「こっちは皆勤賞狙ってたんだよ。いままで休みなしだったのになあ」


 嘆く二宮たちをみて、千尋のぶんのコーヒーを持ってきた朱音が彼らに「あの」と声をかけた。


「これからおふたりとも、どうされるんですか。道路が復旧するまでかなり時間がかかるんでしょう?」


「そうですねえ、車で工事が終わるまで待ち続けるって手がありますけど……」


「あたしはやだよ! 寒いし、車の暖房ってかなりガソリン食うんだから」


 千尋は朱音からコーヒーを受け取ると、空いている一人掛けソファーに座ってカップの中の暖かい液体を口にして「あったかい」と言葉を漏らした。


「……あっ、そうだ。後鳥羽院さん、でしたっけ」


「後鳥羽院朱音です」


 朱音はにこやかな顔でいった。


「朱音さん。お願いなんですけど、今晩あたしたちをここに泊まらせてくれませんか」


「大川さん」


 二宮が千尋に待ったをかけた。


「ご迷惑じゃないか。電話を貸してくれただけでも、ありがたいって思わなきゃ……どうもすいません。忘れてやってください」


「あら、私は構いませんけど」


 あっさりと了承した朱音に、二宮は目を丸くした。


「よろしいんですか」


「ええ」


「ありがとうございますっ」


 千尋が朱音に向かってぶんっ、と勢いよく頭を下げた。


「目の前で困っている人がいたら、誠意を持って手助けするようにと両親から教えられましたから」


 凛とした表情でそう答える朱音に、二宮が尋ねてきた。


「あの、失礼ですが、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」


「どうぞ」


「さきほどから気になっていたのですが、後鳥羽院さんのご両親は何をされている方なのでしょうか。別々に暮らしているそうですが」


 二宮のその質問を受けた朱音は少しの間伏し目がちになって考える素振りをみせると、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。


「……後鳥羽院ホールディングスという会社をご存知でしょうか」


 それを聞いて、千尋が「あっ!」と大きな声を出した。


「やっぱり! もしかしたらと思ってたんだ」


「大川さん、知ってるの?」


「後鳥羽院ホールディングスといったら、重工業からサービス業まで何でもござれの大企業だよ! ニノだって聞いたことくらいあるはずだよ」


「ああ、言われてみればテレビのCMか何かで聞いたことある気がする」


「後鳥羽院って聞いてまさかと思ったけど、まさか朱音さんがそこの人だったなんて……」


「私の父は後鳥羽院ホールディングスの社長を務めていたんです。母は父の秘書を」


「なるほど、大企業の社長ですか。どおりでこんな大きなお屋敷に住んでいるわけで」


 二宮がそういって室内をぐるりと見回していると、朱音がその美しい顔にすこし陰りをみせた。


「……ふたりとも、十三年前に亡くなりましたが」


「亡くなった?」


 呆気にとられた二宮が鸚鵡返しをした。


「あたし知ってます」


 千尋がいった。


「ニュースでけっこう話題になってましたよね。ヘリコプターの事故……でしたっけ」


「両親がアメリカで仕事中に、ふたりが現地で乗っていたヘリコプターが墜落したんです。そのとき私は中学校二年生で、学校で職員室に呼び出されて、先生にヘリコプターの残骸から両親の死体が発見されたことを教えられました」


 淡々とした口調で語る朱音の話を聞いて、千尋と二宮の顔が沈んだ。


「ごめんなさい。辛いことを思い出させちゃって」


「いいんですよ」


「……お察しします」


 千尋に続いて、二宮がいった。


「しかしそれから大変だったでしょう。いきなり頼れる両親を失ってしまったのですから」


「これまでが恵まれすぎていたんですよ。幼い頃に孤児だった私を両親が引き取って、それから十四年間、この家で本当の娘のように可愛がって育ててくれたんです」


「養子だったんですか」


「母は不妊症だったみたいです。いろいろ治療はしてみたようですが、うまくいかなかくて。それで父と相談して養子をとることにして、そして訪れたキンダーハイムで私と出会ったんです」


「まさしくシンデレラストーリーってやつですね」


 千尋が熱っぽい口ぶりでいった。それに続いて二宮が朱音に質問をした。


「それで今は、ご両親の後を継いであなたが会社を経営していらっしゃるんですか」


「いえ、社長の座は他の人に譲りました」


「あっ、そうなんですか」


「いちおう顧問という役職について、それと両親から資産を相続された関係で筆頭株主ということになっていますが、それも全部肩書きだけで、会社の経営に関しては殆どノータッチなんです。強いて言えば、年に一度の株主総会に出席しているくらいです」


 朱音の話を聞いて、千尋と二宮が口をぽかんと開けた。


「どうされました?」


「あっ、いえ。どうも僕たちには、雲の上のお話にしか思えなくて」


 二宮が苦笑しながらいった。


「さてと。私の話をしたところで、今度は二宮さんたちのお話を聞かせて欲しいな」


「僕たちの話ですか」


「そんなこと訊かれてもなあ」


 二宮と千尋が面食らった。


「だって気になるでしょう、女刑事と高校生の謎の関係なんて。姉弟や親戚同士ではないようですし、だからといって見た感じおふたりが恋人同士とも思えない」


「気になりますか」


「大いに」


 朱音がさっきとは打って変わって、興味津々といった体で二宮たちにチャーミングな笑みを浮かべた。


「いったところで信じてくれるかなあ」


「そりゃまあ、下手したら朱音さんの生い立ちよりこっちのほうが現実味がないからねえ。当のあたしたちがいうのもなんだけど……」


「聞かせてくださいよ。信じるかどうかは聞いてから考えますから」


 朱音に詰め寄られた千尋は「ううん」と少し唸ると、戸惑いながら自分と二宮との関係を説明し始めた。


「あたしが刑事だってのは知ってますよね」


「警察手帳見せられましたからね」


「あたし、捜査一課の殺人担当の刑事なんです」


「……殺人担当の」


 朱音が冷たい口調で呟いた。


「それでまあ、殺人事件があったら現場に行って事件の捜査をするんですけど、時々このニノが殺人事件の捜査に関わって、これまで何度もその事件を彼が解決してきたんです」


「二宮さんが? だって二宮さん、高校生でしょう」


「だから信じてもらえるか不安だったんですよ」


 二宮が気まずそうな顔でいった。


「……具代的にはどんな事件に関わったんですか」


「ええっと、初めてニノと会ったのが電車の駅で起こった殺人事件で、次がラノベ作家のゴーストライター殺人事件。ほかには女子校の生徒会役員が起こした殺人事件に、最近はスポーツの強豪校で起こった水泳部マネージャーの部員殺しと……数えてみたらけっこうあるなあ」


「現実味、ないでしょう?」


 二宮が自嘲するようにいったが、朱音は首を横に振った。


「いえ、なんだか二宮さんなら本当にありそうな感じがするんです。二宮さんって、けっこう不思議な雰囲気がある人だから」


「その不思議な雰囲気に巻き込まれるあたしは、たまったもんじゃありませんけどね! だってあたしがニノと出かけると、大抵いつも何かの事件に巻き込まれるんですよ!」


「どんな事件に巻き込まれたんですか」


「一緒に京都に行った時はツアーのガイドさんが旅行客を殺して、一緒に劇を観に行った時は主演俳優が殺人事件を起こしたんですよ!」


「あらまあ」


「今度のディズニーランドだって、パレード中にミッキーがいきなり拳銃を取り出して、ドナルドを撃ち殺したりしないか気が気じゃなかったんですよ、もう!」


「考えすぎなんだよ、大川さんは」


 二宮はそういって隣のソファーに座る千尋の髪を、両手でくしゃくしゃと掻き回してじゃれあった。


「……ディズニーランドですか。両親が死んで以来、一度も行ってないなあ」


 朱音がどこか寂しそうにいった。


「けっこう色々変わりましたよ、ディズニーランドも」


 二宮にぐしゃぐしゃにされた髪を手櫛で整えながら、千尋がいった。


「今のディズニーランドって、どうなっているんですか」


「そうですね。やっぱり、いまだにトイストーリー・マニアが大人気でいつも二時間待ちみたいな感じになっているとか……」


「映画は観たことありますけど、知らない乗り物ですね」


「あっそうか、まだできてなかったんだ」


「他に変わったことってあるんですか」


「そうですね。まずスペースマウンテンってあったでしょう」


 千尋に代わって、二宮が説明を始めた。


「覚えてます、ジェットコースターでしょう。もしかして、なくなっちゃったんですか」


「いや、リニューアルして中身が色々と変わったんですよ」


「ふうん」


「それとミッキーマウスレビューっていう見せ物があったでしょう。こっちはずいぶん前に終わっちゃいまして」


「ああ、ありましたね。私、大好きだったなあ」


「代わりに同じ場所でミッキーのフィルハーマジックっていう3D映画が上映されるようになったんです」


「フィルハーマジック……聞いたことないですね」


「それと3D映画といえばトゥモローランドにミクロアドベンチャーっていうのがあったんですけど、何年か前にマイケル・ジャクソンが死んだのに合わせて、彼の出ていたキャプテンEOというこれまた3D映画なんですが、これが一年間限定でミクロアドベンチャーの代わりに復活上映されまして」


「マイケル・ジャクソンが死んだのも、結構前の話になっちゃったよね」


 千尋が懐かしむようにいった。


「それでこのキャプテンEOなんですが、あんまりに人気が出たので途中で期間限定からレギュラーのアトラクションになったんです」


「ミクロアドベンチャーはどうなったんですか」


「キャプテンEOのレギュラーが決まった瞬間に、おしまいになっちゃいました」


「あら」


「だけどキャプテンEOもその後少ししたら終わっちゃって、いまはスティッチ・エンカウンターっていう、スティッチと会話をするアトラクションになったんですよ」


 千尋が身を乗り出して二宮の話に補足をした。


「ディズニーシーはどうなっているんですか」


「そうですね。シーは絶叫系のタワー・オブ・テラーと、さっきいったトイストーリー・マニアという的当てのアトラクションが出来まして。あとはストームライダーが終わって、代わりに同じ場所にピクサー映画のニモのアトラクションができたんです」


「色々あったんですね」


「色々ありました、ディズニーも」


 二宮がしみじみといった。


「あれはまだあるのかな……」


「あれというと」


「ええっと、名前は思い出せないけど、あの幽霊みたいな人が出てくる」


「ホーンデッドマンションかな」


「そうじゃなくて、ディズニーシーの青っぽい……」


「ええっと、シーだったらスティッチじゃないよね。そもそもスティッチは幽霊じゃないし……」


 朱音や千尋がそうやって頭を悩ませていると、二宮が「あっ」といって右手の人差し指をぴんと立てた。


「判りました、マジックランプシアターのジーニーですね」


「ええ!」


「健在です」


「ああ、良かった」


「魔法使いのシャバーンも元気にしてますよ」


 ほっと胸を撫で下ろす朱音に、二宮がいった。


 そうやって三人で楽しい会話をしていると、夕食の時間が近づいてきた。


「それじゃあ私、晩ご飯作りますね。どうぞゆっくりしていってください」


「朱音さん、あたしお風呂に入りたいんですけど、お風呂使わせてもらってもいいですか」


「いいですよ。案内します」


 朱音は千尋を風呂場まで連れてゆき、彼女に着替えとして自分の部屋着を渡すと居間に戻って台所で夕食の準備を始めた。


 朱音が冷蔵庫から材料を出していると、居間から二宮が台所に顔を出してきた。


「あのう、お手伝いしましょうか」 


「いいですよ。二宮さんは客人なんですから、くつろいでいてください」


「いえ、ただで泊まらせてくれた上に何もしないわけにはいきません」


 そして二宮は朱音に向かって「お願いします、手伝わせてください」と微笑を浮かべながらいった。



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