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二宮浩太郎の独断推理ノート 〜高校生探偵の追究〜  作者: スズキ
第三話 「俳優の選択」 VS俳優/夏目誠士郎
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二宮浩太郎からの挑戦状 其の三



 劇場の大ホールの舞台で上演されている『ウィルソン一族』の第一幕では、ウィルソン一家が所有する浜辺にある別荘で休暇を過ごしている場面が展開されていた。


 そんななか、誠士郎が演じるアンソニー・ウィルソンがある日海で溺れそうになった。窮地に陥ったアンソニーだったが、そんなところを幸運にも近くにいた漁師に助けられ、アンソニーの弟マイケルがボートで救出された兄を心配して慌てて駆け寄った。


「アンソニー兄さん、大丈夫かいっ」


「何ともないさ、マイク。しかし危ないところだった。辺り一面、海月うじゃうじゃ漂っていたんだ。もし刺されていたら、本当に死んでいたかもしれない」


「……そうか」


「それとお前が見たという溺れていた子供のことなんだが、どうやら見間違えだったらしい。あれはどこからか流れてきた樽だったよ」


 何事もなかったかのように平然とそう語るアンソニーに、彼の妹ミッシェルが泣いて抱きついてきた。


「お兄様、わたし、お兄様が無事で本当に良かったです」


「おいおいミッシェル、そんなに大泣きをすることなどないだろう。私はこの通り無事なんだから」


「だけどお兄様、わたし、もしお兄様が死んでしまったらと、とても心配で、怖かったのです。だから……」


「心配ないさ。私たちはいつまでも一緒だ」


 わんわんと声をあげて泣くミッシェルの背中をアンソニーが優しく撫でた。


「やっぱ、舞台の近くの席で見ると迫力あるなあ。うん」


 第一幕が終わり、劇場一階の関係者席で観劇していた大川千尋が感嘆の声をあげた。彼女の隣の座席には二宮が座っていた。彼は顔を顰めながら何一つ物言わずに思索に耽っているようだった。


「ちょっと、ニノったら、まだ夏目くんが犯人って疑っているわけ?」


 二宮は静かに千尋の顔を向くだけで、何も答えなかった。


「言っとくけどね、あたし、今回はニノの推理は外れてると思うよ」


「……どうしてそう思うの」


「だって不自然じゃん。わざわざここまで呼んで、その上ややこしい方法を使って殺すなんて、すごく回りくどいでしょ。それに、もし自殺工作がバレたら真っ先に疑われるのは被害者の身内の夏目くんじゃん。そんなリスクが高いことをするくらいなら、夜道を歩いているところを背中から刺して、そのまま逃げちゃうほうがよっぽど疑われずに済むと思うんだけどなあ。被害者は結構恨まれてたらしいし、誰が殺したかなんてうやむやに出来るでしょ」


 千尋が意見したその時、それまで無表情だった二宮の瞳に微かに光が宿り、彼の眉が上向きにピクリと動いた。


「ニノはこういう時ダメだね。犯人が誰かを早々と決めつけちゃって、あたしみたいに柔軟な考え方が出来なくなっちゃうんだから」


「……大川さんさ」


「ん、なに?」


「せっかく人が感心しているところでそうやってすぐ調子に乗るの、ものすごく腹が立つからやめて欲しいんだけど」


「ちょっと待って、感心してるってどういうこと? もしかしてあたしの推理、当たってたっ?」


 珍しく自分を褒めてきた二宮の態度に千尋は驚きを隠さなかった。だが、二宮の返事は冷淡なものだった。


「別に当たってはいないと思うよ」


「なんだあ、期待して損した」


「だけどね、今回はすごくいいセン行ってるよ」


「えっ?」


「……大川さんさ、ちょっと調べて欲しい人がいるんだけど」


 二時間後、舞台で第二幕が上演されている『ウィルソン一族』がクライマックスを迎えている最中、二宮は劇場にあるカフェテリアでひとり、チョコレートパフェを食べていた。


 巨大なパフェの塔を二宮がスプーンでつついていると、テーブルの上に置いてある彼の携帯電話が鳴った。それに気がつくと二宮はスプーンをパフェのアイスの部分に突き刺して、すぐさま電話に出た。


「はいもしもし、二宮です。ああ、大川さん。なにか判った? ……ええと、名前は矢島(やじま)香奈江(かなえ)さんね。それで、昨日はローカル局で新作ドラマの打ち合わせをしていたと。ここには来てた? ……ふうん、午前中に打ち合わせが終わった後に大急ぎで新幹線でここに来て、そのあとは関係各所に回って対応を。そりゃそうだよね。うん、判った。どうもありがとう。それじゃ」


 二宮は電話を切ると、どこか満足げな笑みを浮かべた。


 ……さて、正直に言ってしまうと、残念ながら今回は決定的な証拠がありません。こちらに手札がない以上、ここはなんとしても夏目さんから自供して頂かなければいけません。


 では問題です。昨日この場所で犯行が行われた理由、そして逮捕されてしまうことよりも彼が恐れているものとはなにか。最初から読み直してみればなにか見えてくるかもしれません。


 見えなかった方は解決編をどうぞ。二宮浩太郎でした。


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