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第6章ー13

 9月12日、ペレコフ地峡突破のための攻撃が始まった。

 その攻撃を行うのは言うまでもない、ルーマニア軍とスペイン青師団の協働でである。

 だが、この攻撃は最初からつまずきがちだった。

 

 何しろこれまでの経緯からして、ルーマニア軍とスペイン青師団の関係は微妙なのだ。

 そして、兵力の多寡からいえば、ルーマニア軍がこの場の主導権を握るのが当然だが、ルーマニア軍に余りやる気がない以上、スペイン青師団が表に立たざるを得ない。

 それがますますスペイン青師団の鬱屈を高めるという状況を引き起こしている。


「我々の航空部隊があればな」

 半ば聞えよがしに聞こえないこともない声が、前線視察に赴いているアラン・ダヴー少佐の耳に入る。

 ダヴー少佐の本来の職務、広報参謀からすれば、前線視察に赴く必要は基本的に無いのだが、幾ら嫌われ役を引き受けているとはいえ、必要以上に嫌われては職務に支障をきたしてしまう。

 だから、ダヴー少佐は積極的に前線視察に赴いて、前線部隊に適切な助言を行おうと努めることで、嫌われの程度を減らそうと、自身で心掛けていた。


 幸いというか、ダヴー少佐がスペイン内戦時の「白い国際旅団」の一員で、日系仏人からなる義勇兵中隊の中隊長を務めて最前線で勇戦敢闘し、フランコ総統から叙勲されたことは、スペイン青師団の主な者にしてみれば、ダヴー少佐が身に着けている勲章を見ただけで推察できることだった。

 そのことも相まって、ダヴー少佐が前線視察に赴き、助言を求められ、それに適切な助言をダヴー少佐が行うということは、好循環を生んでおり、

「気に食わないことが多いが、あいつの言うのは基本的に正しい」

 というのが、ダヴー少佐に対する現在のスペイン青師団の大方の評価となっていた。


 ダヴー少佐は想いを巡らせた。

 スペインは半ば表向きと化してはいるが、中立国のままだ。

 だから、スペイン空軍に来てもらう訳には行かないだろう。

 それに、フランコ総統は、本音ではグランデス将軍を嫌っているらしいから、グランデス将軍の足を引っ張るためにも、スペイン空軍の来援は望み薄だな。

 不本意だが、仏伊両空軍の支援を、現状通り、頼りにするしかない。


 とは言え、このままではらちが明かない。

 ダヴー少佐は自身、本来は厳禁と考えている、参謀統帥を事実上、発動することにした。

 具体的には、自身の目からすれば、どうにも腰が引けている突撃砲大隊に積極的な直接攻撃を行うように勧告したのだ。

 

 本来からすれば、独製でスペインが保有することの無い3号突撃砲だが、鹵獲されたり、再生産されたりした3号突撃砲を、スペインは色々と伝手を駆使して200両程保有している。

 そのために、スペイン青師団は、ルーマニア軍からすれば、ぜいたくなことに各師団に54両の1個突撃砲大隊を編制の中に組み込むことに成功している。

 

 本来から言えば、突撃砲は旋回砲塔を有しない以上、戦車的用法には向かない。

 それを半ば言い訳にして、突撃砲大隊は後ろに控えて、自走対戦車砲としての役割を主にしていたのだが、ダヴー少佐は、陣地戦でそんな腰の引けたことでは困る、と言って、歩兵の陣地攻撃の際の直接支援を突撃砲が行うことを求めたのだ。

 

 この効果は大きなものがあった。

 突撃砲大隊の直接支援は、ソ連軍の陣地攻撃に大きな効果を上げることができた。

 そして、スペイン青師団の奮戦を見て、煽られたルーマニア軍も重い腰を上げて、積極的な攻勢に転じるようになった。

 それにより、9月29日、ペレコフ地峡の南の入り口と言えるイシュニを、ルーマニア軍とスペイン青師団はようやく制圧することが出来、クリミア半島という瓶の口を開けることに何とか成功したのである。

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