第5章ー6
連合国軍としては、8月25日に北方軍集団の攻勢を始める予定だったが、この予定は最初から狂う羽目になった。
8月23日に、ソ連軍の限定攻勢が北方軍集団が担当する地域で始まったからだ。
「敵に先手を取られたか」
石原莞爾中将は渋い表情になった。
「戦争には相手があるものだ。仕方がない。ただ、こちらが攻勢を取ることに気を取られ過ぎたな。いや、こちらの攻勢準備が見破られていて、先に攻勢を取ろうとソ連軍が考えたのかもしれん」
北白川宮成久王大将が言った。
「確かに、こちらの攻勢準備を完全に隠しつくすことは無理でしょうね」
土方歳一大佐が口を挟んだ。
「ソ連軍の目標は」
「連合軍が西ドヴィナ河の渡河を果たしている、ダウガフピルスの奪還が主な狙いのようですな。本来から言えば、リガを主に狙うのでしょうが、先日の連合国軍の艦砲射撃の悪夢が未だに遺っている。従って、内陸部の渡河点であるダウガフピルスを主に狙っているようです」
北白川宮大将の問いかけに、土方大佐は答えた。
「我々はどうすべきかな」
「現在(8月23日昼)、ソ連軍で攻勢を行っている兵力は、約10個師団、やや大きめの1個軍規模と見られています。これに米第1軍が対処しており、少々苦戦しているが、自力で何とかなる、と米第1軍司令官のブラッドレー将軍は言っているそうですから」
北白川宮大将の問いに、石原中将は、そこで言葉を切った後、笑みを浮かべながら言った。
「我々は、少し早くなりますが、明日早朝、攻勢を発動し、エストニア方面への進撃を開始しましょう。1日早い攻勢発動になりますが、何とかなる、と思います。それにソ連軍の攻勢の側面を、我々が脅かすことになり、ソ連軍の攻勢の足も止まるでしょう」
「ふむ」
北白川宮大将は考えを巡らせた。
確かに悪くない考えだ。
問題は、連合国軍総司令官のアイゼンハワー将軍の了解が取れるか、だが、とりあえずは意見を具申し、攻勢準備をしようか。
「よし、直ちに準備に掛かると共に、連合国軍最高司令部に意見具申を行え」
北白川宮大将の決断が下された。
その頃、ダウガフピルス周辺に展開する米第1軍の最前線では、ウラソフ将軍率いるソ連第2打撃軍が猛攻を加えていた。
ソ連軍の攻勢の際の基本戦術にある意味忠実に、Il-2襲撃機の編隊が、米軍の部隊に空からの攻撃を加えてくる。
また、米軍陣地を攻撃する際の火力支援の一環として、砲撃に加え、多連装ロケット砲(通称、カチューシャ、スターリンのオルガン)による攻撃も加えられてくる。
「さすがにソ連軍、大火力をぶつけての攻撃は重厚極まりない」
第1軍の司令官であるブラッドレー将軍は、ソ連軍の攻撃に感嘆せざるを得なかった。
勿論、米第1軍も反撃を加えている。
戦力的には、ほぼ互角なのだ。
ただ、こちらから攻撃を加えるつもりが、敵に先んじられたために、戦場の主導権をソ連軍に握られてしまい、やや苦戦を強いられてしまっている。
更に問題が一つあった。
対ソ欧州侵攻作戦が発動されて以来、ずっと米軍内で問題になっていたことではあるのだが、ソ連軍の誇るIl-2襲撃機が極めて落としにくいのだ。
米軍の戦闘機は、12.7ミリ機関銃を多数装備が基本である。
だが、Il-2襲撃機の装甲は、12.7ミリ機関銃では容易に貫通できるものではなかった。
1942年夏のこの頃の米軍の戦闘機はP-40が主力であり、それにP-38を補助するというのが現実だった。
更に、極東戦線でお互いに得た戦訓から、ソ連軍はIl-2襲撃機の複座型を実戦に本格投入するようにもなっており、それも相まってIl-2襲撃機は、米軍にしてみれば疫病神と言える存在となっていたのである。
実際には、そうでもないよ、というツッコミが起こりそうですが。
Il-2襲撃機については、独軍側の資料だと中々落ちなかった、というのを見かけるので、攻撃を受ける米軍のイメージでは、あいつ、本当に落ちないな、と思われているという事で。
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